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上の世界を肌で感じた者

恐怖を植え付けられた者

対処し凌いだ者


轟に続き、目の前の障害物を突破していくのはやはりA組だった。USJで経験した事が各々の糧となり、迷いを打ち消している。


『やっぱりA組のみんな…すごい…!』

「退け風間ッ!」

「勝己…ッ!…えっ、お前今ッ」

「邪魔だわクソがッ!」


咄嗟に頭上から名前を呼ばれ見上げると、そこには障害物を飛び越えてきた爆豪の姿があった。彼はあっという間に俺を追い抜き、轟の後を追っていく。

彼から“エアプ野郎”以外で呼ばれるのは初めてかもしれない。俺は爆豪に名前を呼ばれた事に驚き、遅れを取ってしまった。

ーーー機転の利く爆豪の事だ。これも作戦の内だろう。


「完全に、不意つかれた…っ!勝己やるなぁ…!」

『…ううーん…違うと思うなぁ…』


守形が何やら苦笑していたが、今は拳を握りしめ、彼らの後を追いかけることにした。



第一関門を突破すると、目の前には不安定な足場とそれを繋ぐロープ、下は暗くて見えないほどの深い谷底となっていた。実況しているひざしさんが、第二関門“ザ・フォール”と叫ぶ。


「さあ先頭は難なくイチ抜けしてんぞ!!足元竦んじまったかァ!?」

『…これって落ちた人は大丈夫なのかな…』

「大丈夫だろ…多分」

「おおっと1-A風間!空中を走って先頭に追いついたァ!アイツなんでもありかよズリィッ!!」

「…個性の使い方次第だろ。あいつは自分の個性の性質をよく理解してる」

「えっ!イレイザーが褒めた!?」


不意に消太さんの声が聞こえ、思わずピクリと肩が跳ねた。ひざしさんが茶化したようだが、先程の発言に思わずニヤけそうになる。

『…よかったね、空悟にぃ』

「に、ニヤけるからやめろ…っ!」





轟、爆豪、俺の順でゴールへと突き進むと、あっという間に最終関門へと差し掛かる。目の前には開けた空間があり、遠目に見たところ何も無い地面のように見えた。


「一面地雷原!!!怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!目と脚、酷使しろ!!」

「うわ…っ…これ先頭不利だな…」


威力は大したことないらしいが、地雷を踏めば後が楽になってしまう。目の前の轟が地面を凍らさずに地雷を避けていのを見ると、恐らく彼も後続に道を作らないようにするつもりだろう。

この後どれほど過酷な競技が待ち構えているのか分からない。まだ息は上がっていないが、ここに来るまでも何度か個性を使っているため、個性の連続使用は避けたかった。

しかし、有利な個性をここで使わない訳にはいかない。


ーーー俺が目指すのは一位だ。

「っ…出し惜しみしてらんねぇな…!」

「空悟…!」


俺は空中に足場を作ると、それに気づいた轟がこちらを振り返った。彼の個性と違い、俺は後続に道を残さない。


「先行ッ、!?」

「はっはぁ俺は関係ねー!!」


突如後方から爆発音と共に何かが通り過ぎようとした。この音は、この声は…

爆豪だと気づいた時には、先頭が3人同時に並んでいた。爆豪は轟を見下げて、声を荒らげる。


「てめェら宣戦布告する相手を間違えてんじゃねえよ…ッ!!!!」

「ゲホッ、くそ…!」

爆豪の爆破の影響を受けた俺は、足元がぐらつき再び地面へと落ちる。それと彼が地面へ爆破を放ち、轟を押し退けるようにして前に出たのは、ほぼ同時だった。


ーーー彼の個性との相性は、本当に悪い。


「ここで先頭がかわったー!喜べマスメディア!!おまえら好みの展開だああ!!後続もスパートかけてきた!!!だが引っ張り合いながらも…」

「相性、最悪だなッ…マジでッ…!」

「爆豪ッ…!」

「てめぇらに俺の前は行かせねぇッ!!!」

「先頭3人がリードかあ!!!?」


もうゴールは目の前。このまま俺たち3人のデッドヒートが繰り広げられ、勝敗が決まる








ーーー誰もがそう思っていた。

『空悟にぃ危ないッ!!』

BOOOOOM!!!!

守形の叫び声と後方から先程とは比にならない程の大きな爆発音が聞こえたかと思うと、俺たち3人の頭上を何かが飛び越えて行った。


「っ、緑…谷…ッ!?」

「A組緑谷 爆発で猛追ーーー…っつーか!!!抜いたあああああー!!!」

「デクぁ!!!!!俺の前を行くんじゃねえ!!!」


フィールドの地雷と金属の板のような物を利用して、爆豪のように飛んできたのはまさかの緑谷だった。

予想もしていなかった人物との先頭の入れ替わりに驚く暇もなく、爆豪は緑谷に叫びながら爆破で勢いを上げ、轟は地面を凍らせその上を走る。

俺も土埃の影響など気にしている余裕などなく、ただひたすらに空中を駆け抜けた。


「ッ、く、そッ…!!」

『空悟にぃ頑張って…ッ!!』


追い越されそうになった緑谷が持っていた金属の板を地面に叩きつけ、地雷を爆発させ後続を妨害すると、その爆破により爆豪も轟もバランスを崩されてしまう。

2人の後ろを走る俺も、汚染された空気を吸わないよう口元を覆うが、苦しくなる一方だった。


一瞬の判断が、勝敗を決める。


「さァさァ序盤の展開から誰が予想出来た!?今一番にスタジアムへ還ってきたその男ーーー緑谷出久の存在を!!」


「ッ…ゲホッ…っは…くそ……まじか…っ、ごほッ…」

『でも…!4位だよ…!すごいよ!』


俺は緑谷、轟、爆豪に続いて四位でスタジアムへと還ってきた。俺は息を整えながらペースを落として歩いていると、爆豪が視界に入ったが、とても声をかけられる状態には見えなかった。


彼の表情を見て、最後の最後で上手く立ち回ることが出来なかった悔しさが込み上げる。


「……っ、…守形…嬉しい、か?」

『うんっ…!とっても!空悟にぃありがとう!それから、お疲れ様…!』

「…そっか、ならよかった。ありがとな…よし、切り替えるか」

『ん…!』


それでも、守形が嬉しそうにしているのを見れば、少し報われた気がした。


風間 空悟
障害物競走 4位








mokuzi