65
俺たちの作戦は、目立たず、終盤まで静かに慎重に動くこと。心操は最初にポイントを取られて、身軽になることを選んだ。
最後にポイントを取れなければ、0Pのまま終わってしまうリスクの高い作戦だが、飛び交う声援と一際大きな声で実況を繰り広げるひざしさんのせいで、下手に目立つと狙われてしまうかもしれない。
遠目から見ていると、轟と緑谷が対峙しているのが視界に映り込む。轟の騎馬が緑谷たちより先に踏み出すと、八百万から何かが“創造”されるのが見えた。よく見ると、上鳴と触れ合っている部分にも何か付けられている。
「不味いッ、心操飛ぶぞ!」
「っ、!」
心操が答える前よりも早く、俺は足場を成形し飛び上がる。混戦している場所から離れている俺たちの方にも、ソレはやってきた。
「無差別放電130万V!!」
「何だ何した!?群がる騎馬を轟 一蹴!」
「っ、ぶねぇッ…」
「…風間、助かった」
上鳴の放電で確実に動きを止めてから、動けなくなった騎馬を轟が足元から凍らせる。障害物競走の時、結構な数に避けられたことを省みて、無差別に範囲攻撃のできる上鳴をチームに入れていたのだ。
『…すごい…』
「…流石、焦凍」
俺も守形も、流石の対応力に感心してしまう。しかし、彼に魅入っている場合ではない。体制を立て直し、心操を見上げる。
「風間、あとあれが何発来るとか、お前分かるか」
「連発すると上鳴が使い物にならないことは分かってるだろうから、何度も打ってくるとは思わないけど、正確な回数まではわかんねぇな」
「…っ…俺の個性は、対象者に衝撃を与えられると解けちまう」
心操が悔しそうに顔を歪める。迂闊に近づいて個性が解ければ、騎馬が機能しなくなってしまう。賭けにはしたくなかったが、最後ギリギリで心操の個性で仕掛けるしかない。
「…足止めは俺がする。3位のポイント、確実に取れ」
「…お前、」
「その個性がすごいってとこ、見せてくれよ」
俺の事を気にする心操に対し、俺は彼に自信を持ってもらうべく笑ってみせた。ここまで周りを出し抜いて上がってきたのに、変なところで気を使うなよと笑えば、心操は少しバツが悪そうに顔を背けた。
「守形、一か八か…行くぞ」
『うん…!!』
ーーー制限時間も残りわずか
遂に終わりへのカウントダウンが始まる。残り10秒を畳み掛けるようにして、緑谷と爆豪と轟は三つ巴となった。
彼らには、他のチームのポイントなど眼中になかった。だからこそ、3位のチームはこのまま逃げ切るつもりでいたのだろう。
ーーー残念だけど、がら空きだ。
「なあ、あんた」
「あぁ!?ーーー」
「…っ!貴方一体何を」
「『憑依!』」
心操の問いに答え“洗脳”されてしまった鉄哲からポイントを奪い、その横を通り過ぎる際何かされたことに気づいた塩崎が個性を使おうとした瞬間、俺は塩崎に触れながら彼女の目を見た。
「TIME UP!早速上位4チーム見てみよか!!1位轟チーム!!」
「………くそっ…」
「2位爆豪チーム!!」
「だぁあああ!!!」
「3位鉄て…アレェ!?おい!!!!心操チーム!!?」
ひざしさんの驚愕した声が、会場全体に響き渡る。一気に注目は3位のチームに注がれ、モニターに大きく映し出された。
「ご苦労様」
「っはー…ギリギリ…でもやったな、心操」
「…風間も依代も、……お疲れ様」
「おう」
『うん…!お疲れ様…!』
最後、ポイントを掴むことが出来たのは心操のおかげだと握手を求めると、彼は俺の手を見つめ、ぎこちなく握手を交わしてくれた。
やり方はどうであれ、これで最終種目に進出できる。俺は、“洗脳”が解けて後ろで困惑している尾白へと歩み寄った。
「風間……俺はあいつに話しかけられてから記憶がぼんやりとしかないんだ…もしかして、あいつの個性に…」
「…尾白、」
「…いや、…待って…少し考えてくる…」
『…尾白、くん…』
最後鉄哲チームとぶつかった際、彼の“洗脳”は解けた。そして、そのままの流れで競技は終わってしまったが、尾白は何となく察しがついているのだろう。困惑している尾白は、俺に背を向けてスタジアムを出て行ってしまった。
俺はどう言うべきか咄嗟に言葉が出ず、去り行く彼の背を見つめた。尾白の性格なら、恐らく…
『………空悟にぃ、僕…』
「……こうなるのは分かってたし、俺だって勝ちたい気持ちは同じだった」
ーーー後悔している訳じゃない。
しかし、本当にそれが正しい判断だったのかと聞かれれば、俺は答えることが出来ない。尾白なら“洗脳”しなくとも、チームを組もうと言えば組んでくれたはずだ。
それでも俺は、否定されてきた自分の個性でも、ヒーローになれるって認めてもらおうとする心操を…
“お前にその技術も勉学も必要ない”
“現実を見なさい。空悟”
ーーー……自分と重ねてしまったから。
← mokuzi →