08


あれだけ息苦しかった呼吸が急に楽になり、そのままベッドへと落下した。急に酸素を受け入れたせいでむせ返りながらも、何が起こったのかと混乱する頭で声のした方を見る。

そこには目を見開き、長い黒髪を逆立てながらこちらを見つめる全身真っ黒の男が立っていた。


ーーーどうやら彼が、俺に何かをしたらしい。



苦しさの残る口からはなかなか言葉が出ず、言いあぐねる。痺れを切らした男は、看護師に何かを告げると逆立てていた髪を下ろし、こちらへ近づいてきた。


「………あ、あの…?」

「時間が惜しい。手当しながら、話そうか」


男は先程の現象で倒れてしまった椅子を元に戻し、ベッドの横に腰掛けた。戻ってきた看護師数人により手当と病室の掃除が行われ、その間にも男は話を続けた。


「俺はプロヒーローのイレイザーヘッド。2日前、マンションの屋上から飛び降りた君を助けた」

「ぷろ、ひーろー…?…あ、その…ありがとうございました…」


俺はマンションから飛び降りた男の子を助けるために同じように飛び降り、彼を腕の中に抱き締めた感覚までしっかりと覚えている。
地面に叩きつけられる寸前のところで、どうやらこのプロヒーローのイレイザーヘッドという男が助けてくれたらしい。

プロヒーローってなんだ…?


「ああ。…単刀直入に言おう。俺が助けたのは、君ともう一人…スーツ姿の男だ」

「…………え…?」

「君の個性か何かだと思っていたが…どうやら違うな。…今の状況を詳しく話せ。不確定要素も全部」



ーーー俺は、言葉に詰まる。

スーツ姿の男というのは、恐らく俺のことだろう。しかし、今俺が助けたであろう男の子の姿になっている事を、どう説明していいのか分からなかった。











mokuzi