V

伯爵のもう1つの古城。
伯爵はルキをベッドの上に横たえた。

「ルキ…わたしのルキ」

髪を、頬を撫で…伯爵はそっとルキの唇に口付けた。

「…ゼネルガ?」

ルキの瞳が開き、伯爵をとらえた。

「すまない…花嫁達が、また…」

伯爵の顔は陰になっていて見えにくい…だが、ルキには彼が悲しんでいるように感じ取れる。

「ゼネルガ、泣きたいのなら涙を見せてもいいんだよ…?」

ルキの手は傷の痛みを我慢しながら伯爵の頬に触れた。
つーっと伯爵の頬を伝う涙…。

「すまない…わたしはお前を守れなかった…」

ぎゅっと自分を抱き締めてすがる伯爵をいとおしく見詰めるルキ。

「大丈夫…ちゃんと助けてもらったよ?」

「駄目だ!お前は傷だらけだ!わたしがっ……」

ルキは伯爵の言葉を遮り、唇をふさぐ。

「…大好き、ゼネルガ」

ルキの唇は冷たく、顔色も悪い…出血と雨にうたれて体温を奪われたのだ。

「ルキ!今すぐにわたしの血を…!このままでは死んでしまう」

慌ててそう言う伯爵をルキは笑顔で止めた。

「ごめんね…ゼネルガ…私はもう..肉体がダメなの」

今までにも花嫁達や人間に襲われ、大怪我の度にドラキュラ伯爵の血を体内に入れた。
だが、人間であるルキの肉体には毒なのだ。

「いやだ!ルキ…わたしを置いてゆかないでくれ!!」

痛いくらいにルキを強く抱き締める伯爵の腕…それと同じくらい胸が締め付けられる。

「ごめんね…ごめんなさい…私が人間じゃなかったら、あなたのそばにもっといられたかもしれないのに…」

ルキの瞳からいつしか涙が溢れている。

「そんなことを言わないでくれ…わたしはルキ、お前がいてくれれば何もいらないんだ!」

必死にすがる伯爵をぎゅっと抱き締め返し、ルキは再び伯爵の唇に口付ける…。

「ありがとう…ゼネルガ……愛してる・・・・・」

それを言うとルキの腕はだらっと落ち、動かなくなる…。
伯爵には、もうルキが生きていない事が分かる。

「…キ…ルキ……ルキ…ルキ……キ……」

何度も何度も愛しいルキを呼ぶ伯爵の声が星明かりの差し込む古城にこだまする。
いつの間にか雨は止み、雲が晴れていた。

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