3、記憶の中の君

敵との長い戦いの中で汚染されたこの星の海上を浮遊能力で飛びながら第九小隊が敵と戦う和国へ急ぐ。1小隊3〜6人で組まれる軍の能力者部隊は数と感知能力、パワーで勝る敵との戦いでここ数年で急激に数を減らしている。
僕の所属する第五小隊は5人で構成されていて、比較的メンバーの入れ代わりの少ない部隊だ。あの時まで、この中にルキもいた。

「紘樹、遅れてるぞ!」

「ルキのこと考えててはぐれるなよー」

先頭を飛ぶ隊長に注意され、先輩にはいつものようにからかわれる。
僕の少し右斜め前を飛ぶもう1人のメンバー、同期の彼はいつも意地悪な事を言う。

「お前を守ってくれるルキはいないんだ、分かってるよな?俺はお前の盾になんてならねーからな!」

そうだ、彼の言う通り彼女は...ルキは敵の攻撃に気付かずに立ち尽くしていた僕を助けるために盾になって傷付いた。僕は仲間が敵に殺られて汚染された海に沈んでいくのを見ている事しかできなかった。
今も起きずに眠り続ける彼女は僕のせいで...。

「ばか野郎紘樹!ルキはいねえって今言ったばっかだろ!!」

同期の声に現実に目を向ければ、僕を狙った敵の攻撃を彼は剣で弾き飛ばしていた。
僕はいつも誰かに守られてばかりいる臆病者で...こんな僕をルキは嫌いになってもしかたないのに。憧れた彼女には戦績は置いていかれるばかりで、能力だって使える数は少なくて、剣も振るえない僕は弱い男。

「こんなんじゃ、ルキにッ...!」

僕は彼女の刀を抜いて構え、群がってくる敵に勢い任せに突っ込んだ。敵の攻撃が頬や肩をかするが痛みなんて感じない。
隊長の怒った声だって今の僕にはきこえない。だって、だって...こんな僕が憧れた、ルキの刀の太刀筋はこんなものじゃない。

「僕だってもっと速く!!ルキに守られないくらい強く...!」

がむしゃらに群れてばかりいる敵を切り裂き続けて、僕が気付くと周りの敵は一掃されていた。
全身、大量の敵の有害な返り血にまみれている。体から力が抜ける、動きが鈍い...体中が悲鳴を上げているように熱くて痛い。
彼女はたまに、こんな戦い方をしても平気だと笑っていた。いや、ルキは元々の霊神力の純度も何もかもが高い値で結界能力や治癒系の能力も使えた。

「っ...痛ってぇ......」

こんな僕とは大違いだ。痛みと熱で意識が薄れる。なんとなく、汚染された海面が目の前にある気がする。
僕を心配する隊長の顔、僕を叱る先輩の声...一緒の小隊の同期だけでなく、和国で交戦中の第九小隊に所属する同期の姿もある。
いつの間にか第九小隊と合流していたらしい...でもそこで、僕のぼやけていた視界は真っ黒に染まった。





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「敵がこわいの?それとも傷つく仲間を見るのがイヤ?」

いつも僕の前に立ってこんな弱い僕を心配してくれるルキ。


「紘樹はさがってなよ。あいつらは私が全部片付けるから★」

どんなに強い敵やどれだけ数が多くても...いや、ルキは強い敵を前にするほど、自分の周りに敵が多ければ多いほど楽しそうにニヒルな笑みを浮かべていた。

ーーー記憶の中の君は、本当に強くて...

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