3

魔城。ルキアが連れてこられたここは、たくさんの花や木々が咲き誇り、奥に湖の広がる綺麗に整えられた庭を囲むように人間用サイズの城がそびえ立つ。
魔王を筆頭に魔族は人間より遥かに大きい。彼らにとって家などいらず、ただ魔城といっても自分達の広大な領土を隔てる巨大な塀がそびえ立っているだけである。

「きれい...」

ルキアは広い城内や庭を探検して、今は庭の奥にある湖へと来ていた。
湖のほとりに座り、太陽の光で反射して光輝く水の中に手を入れてみた。ちょうど良いくらいに冷たい。

「ここに来ればルキリアに会えるかとも思ったけど、誰もいないみたいだし...」

こんな大きな城に1人でいるのは、何だか心細い。この城内にいないとなるとルキリアはもう魔王に喰われてしまったのだと思う。
それがまた、ルキアを不安にさせる。自分はいつ、魔王に喰われて死ぬのだろうか。そんな考えだけが頭を過っている。

「この城は気に入らないか?」

突然に後ろから掛けられた声。この城には誰も居なかったはずだ。
後ろを振り返って声の主を見ようとするが、何故か体が凍り付いたように動かない。

「どうした?フッ、我が恐いか。人間の娘」

嘲笑うかのように言われた、低い声。おそらく声の主は魔族だろう。本能が完全に魔族に対して恐怖している。
まったく動かないルキアに、声の主はまた笑うとルキアに近付いて横に立った。

「お前の名は何だ?」

予想していなかった言葉にルキアは思考が追い付かずに目を見開いた。視界の端に見えたのは、黒いもの...てっきり見上げても全体が見えない魔族を思い浮かべていたが、それは人間の成人男性くらいの大きさではないだろうか。

「いつまで黙っている。せっかく我から来てやったというのに...しかも下等な人間の姿をとってやったというのに・・・」

言葉の後半にいくほど声が小さくなり、まるで小言のように言われた。
そしてルキアは恐怖からか何なのか、ほっとしたように思い、いつの間にか頬を涙が伝い落ちていた。

「良い反応をする人間の娘だ。気に入った」

そう言うと彼はいきなりルキアを抱き上げ、地を蹴った。ふわっと宙に浮く感覚が必要以上にルキアを駆けた。
そして、事を理解するのに少しかかったが今、自分は全身に黒を纏う彼に横抱きにされて2階のベランダにいた。

「え?今湖に、何で城の2階に!?」

「そう騒ぐな人間の娘。おとなしく我の相手をするが良い」

再び疑問に思っていると、気付けば部屋の中で...気が付けばベッドの上にいた。どうやらここは寝室らしい。

「我は乳の肉が多い方が好みだが、まあ仕方ない。我慢するとしよう」

いつの間にか視線は天井を向いていて、彼の手はルキアの胸の大きさを確かめるように服の上からいやらしい手付きで触られていた。

「...何で!?魔族は人間を食べるんじゃないの!?」

「騒がしい奴だな。黙っていろ」

ルキアを鬱陶しそうに見て、彼はルキアの唇を自分の唇でふさいだ。



これが、魔族の頂点に君臨する魔王 ヴァイス・ファントム・イブリースとの初めての出逢いだった。

[ 27/41 ]
[*prev] [next#]
[戻る]