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お風呂をあがったルキアは、濡れた体をタオルで拭いて服を着た。濡れた髪をそのままに、新しいタオルを肩にかけて脱衣所を出てリビングに向かう。
すると突然、ヴァイスの声が頭に響いた気がして足を止めたルキア。

「え、ヴァイス...?」

気のせいかとまた歩き出すと、やはり彼の声が聞こえる気がする...。
隣の家からリオンを呼んでいるおばさんの声、家の外から母親が自分の子供を呼ぶ声がたくさん聞こえた。その異変に、長の家で話し合いをしていた大人達も外へ出ているらしく騒がしい。

「ルキア!」

今度は玄関のドアの開く音がして...ルキアの母親が来て抱き締められた。とても不安そうな顔で抱き締める力が強い。

「何?どうしたの?」

ルキアが聞けば、答えてくれたのはルキリアの母親である。いつの間にか玄関から入ってきていた。
彼女もまた、とても不安そうな顔をしている。

「雨に濡れて熱を出してた子供達、それに私達にも聞こえるのよ。誰かの声が...星が危ないって、誰かが次にその身を差し出さなければ星が滅びるって...」

「リオンや子供達はその声に呼ばれて外に出ようとしてるの」

理由が分かったルキアは、母親達に大丈夫だと言って安心させるように笑った。
そして自分も家の外へと出た。
そこには太陽村に住む者の大半が集まっていて子供達は声に呼ばれるままに彼のもとへ行こうとしている。それを止める親達。この声に恐怖して泣いている者、叫んでいる者が多々見受けられた。

「ヴァイスが呼んでるの...魔族はこの星が生存するのに必要な種族だったから」

あの城には興味深い古書がたくさんあった。最初は暇潰しで始めた読書だったが、読んでいるうちにこの星の事や魔族、人間の持つ白の霊力についても知った。
ヴァイスが次の“魔王”となるべく存在を呼んでいるのだ。

「どういうことなの?」

一緒に外に出てきたルキリアの母親とルキア母親。
母親達に聞かれ、ルキアは城の本を読んだだけなんだけどと苦笑すると真剣な顔をして答えた。

「この星には“星の意思”というものが存在する。星の意思はこの星に住む者の心を蝕んでこの星を維持する...簡単に言えば“犠”」

「犠?でも、心を蝕むなんて今まで...」

「昔聞いたことがあるわ。おじいさまに」

ルキリアの母親である彼女はこの姉妹の長女に当たる。そのため長にいろいろと聞いていたらしい。

「魔族はこの星に生きる、知的生物の中で一番大きく強い魔力を持つ一番強い種族だと...それに引き換え人間は小さく愚かで弱いと言われていて、でも一部の人間は魔族の魔力を脅かす程の霊力を持っている。」

「姉さん物知り...」

当然だとルキリアの母親は妹に格好を付けて笑った。
ルキアも頷き、話を続けた。

「だから今まで人間や他の生物達には、平和な日常があった...」

「何言ってるのルキア、今まで平和な日常なんて無かったでしょ」

母親の言葉はもっともである。ずっと人間は魔族に喰われる関係にあったのだから。
平和な日常なわけがない。
ルキリアの母親はため息をついてから話した。

「ルキアの話からすると、犠はおそらく“魔王”ね。まあ、魔族が人間を見下して喰うのは元々の事だと思うけど」

自分も人間を喰いたくなる時があると、突然の告白にルキアもルキアの母親も驚いた。
そして突然に彼女達の後ろに現れた3本の足を持つ影。

「人間を喰いたいとは、お前は魔族寄りのようじゃの」

突然の登場は心臓に悪い。ルキア達は長の声に驚いた。
よく見れば長の顔色はやはり悪い。ルキアの母親は慌てて側に寄って手をかしている。長は無理をしているのだろう。

「お前達の推理は正解じゃ。魔王がいなくなって星が不安定になっておる。それにルキア、ヴァイスの心は肉体を無くして星の意思に喰われかけておる」

長の言葉にルキアは驚き、どうしたら助けられるか長に聞こうと真剣な顔つきになった。
長はその思いをくみ取って哀しそうに、だがはっきりと言った。

「お前が女王になれ、ルキア」

長の言葉にルキアも母親達も言葉を失った。
それはルキアに犠になれということか...。

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