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今期の犠としてヴァイスに拐われ彼らの領土に来て少し経った頃の事。魔王であるヴァイスが自分を喰べずに生かし、何故だか彼は彼で可笑しな行動をとっているようにも感じている。

「今日も欠かさずに約束の時間にあの魔王は来るんだよね...」

いつもの寝室、城のベランダの柵に肘をついて外を眺めても面白い物など無い。あるのは魔族の広大な領土、城の周りは草原の様になっていてその先は砂漠、岩場、海や崖などもあるらしい。

「あの魔王に頼んだら、連れていってくれたり...」

ルキアは自分が何を考えて言葉にしているのか気付いて慌ててそんな考えを忘れるように頭を左右に振った。
相手は魔族だ。人間を喰す大きな敵なのだから...自分をた喰べずにいるからと魔王に気を許す訳にはいかない。

「魔王は人間の敵なんだから!」

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そんな事を言っていた事が少し懐かしい。
ルキアはこの前の事を思い出しながら城内を歩いていた。ヴァイスが訪ねてくる時間まで寝室にいても暇だし、中庭には先程までいたのだが1人で花を見ているのにも飽きてしまった。

「“正義記V”なんて可笑しな本、あれをどうにかして全巻見つけて読んでみたい」

昨日、城内の図書館でルキアは見付けたのだ。ヴァイスの父親の書いた日記帳というのか格好をつけて書いた自分の冒険記というのか...先代の魔王には失礼かもしれないが、とにかく面白そうな本を見付けたのは間違いない。

「あれ、本棚から引っ張り出すのも面倒なんだよね!」

そう言いながら目的の図書館の、少し重い扉をルキアは開いて中に入る。今まで読んでいた本棚を通り過ぎて奥へと足を進めた。
そして、自分の行く先を阻む大きな本棚の中から自分の手を思いっきり上に伸ばして届く赤い背表紙に金の糸で装飾をされた自分よりも大きな本を半分だけ引っ張り出す。
ここは隠し扉になっていて、この奥にはまた大きな大きな本棚が立ち並び壁を埋め尽くしている。

「ヴァイスとの約束の時間まではまだ時間があるはずだし...それにこの本はこの星の秘密も書かれている」

隠し扉から入って右側にある本棚に向かい、目当ての本を引っ張り出そうとその本に手を掛けた。
ここに来て読み始めた自分の上半身程ある本よりサイズでもとても大きいと思っていたが...この本はそれ以上の大きさで自分よりも大きいサイズだったりする。

「重い...何でこのサイズなの?」

大きな本棚から大きすぎる本をやっとのことで引っ張り出し、これだけでも相当の体力と時間を使う。早く読みたいのに読めないのはもっとイライラさせてくれる。
これを寝室まで運んでゆっくり読みたいとも思うが...いや、この図書館から出すのでさえ自分1人ではムリだろう。

「ヴァイスにでも頼んでみようかな...?」

そんなことを呟きながら、少し冷たい石造りの床に座りながらその本を床に置く。ルキアは重い表紙を持ち上げて本を開いた。
これはページをめくるのも大変そうだなと半分諦めながら、この本のサイズに合わせて大きい文字を読み始めたのだった。

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