押してダメなら

「え〜〜じゅんく〜〜〜〜〜ん」
「だぁーーーーーー!!暑い!!!暑苦しい!!!!ひっつくな!!!!」
「大丈夫!わたし体温低いから!」
「そういう問題じゃねェ!!た、助けてくれ春っち!」

春っちくんにチャイムが鳴るからと窘められ、仕方なく栄純くんから離れる。栄純くんはぷりぷりと教室に帰って行ってしまった。あー寂しい。栄純くんと同じクラスだったらよかったのに。

「……苗字さん」
「え?あっはい!なんですか春っちくんさん」
「さんはいいよ。…栄純くんのことだけど」
「? 栄純くんの…?」

まさか姑がましくうち(野球部)の栄純くんに手を出すなとかそういう系?!と身構えていると春っちくんはまるで本当に栄純くんのお母さんみたいに、「ちょっと待ってあげてほしいんだ」と言う。その声色で、表情は見えないけれど、とても優しい顔をしている気がした。

「苗字さんが積極的だから栄純くんが処理しきれていないだけで、本当は喜んでるはずだから」
「そ、そうなのかな…?」
「そうだよ、だから押してばかりじゃなく、ちょっと引いてみて」

深くは理解しきれずも、わたしは春っちくんの言葉に従い、その日は栄純くんに抱きつくことはなかった。





「あれ?なまえ今日は大人しいじゃん」
「まあね……」

正直我慢の限界だし体が栄純くんに抱きつきたいと悲鳴をあげてるし耳が栄純くんの声を聴きたいと喚いているし口が栄純くんに愛の言葉を囁きたいと叫んでいるけど!!
けど、春っちくんが意地悪でああいうことを言ったとはどうも思えなくて、わたしは心中を一片たりとも顔に出さないように昨日に引き続き今日も穏やかを装っている。
バレないように栄純くんの方を見てみると、あれ、わたしの方見てる…?

栄純くんはため息を吐いたかと思うと、春っちくんに何やら話しかけていた。どうしたんだろう。体調悪いとかじゃないといいけど…

不安になってそわそわしていたら、同じくそわそわした様子の栄純くんがこっちへぎこちない動作で歩いてきた。どうしたの、栄純くん?

「あ、いや、そのだな……今日はくっついてこないのかと………」
「………………え」

栄純くんがぼっと顔を赤くして何やら言い訳がましいことを言っているのも耳に入らず、わたしは栄純くんに飛びついた。
春っちくん、このご恩は一生忘れません……!
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