みゆきちゃんとダッシュ



 目が覚めて、微かな違和感を憶えながら携帯に手を伸ばす。そこに表示された文字は、信じがたいがいつもなら家からとっくに飛び出しているはずの時に見る数字だった。


「‥‥わはははわは、わはははは」


寝坊した。




「いやいやいやさすがに生徒置いて行かないでしょそこまで薄情じゃないよなあ先生はー!」

走りながらつい独り言をこぼしていると、なんとなくそこらへんに落ちている石ころや蔓延る雑草でさえ、自分を応援してくれているように感じる。
そうだ、何としても間に合わなければ。応援してくれている石ころや雑草たちのためにも。昨日下校中に駄菓子屋さんを見つけてその場のテンションに任せて山ほど買ってしまった、大量のお菓子たちのためにも‥‥!

「そうだよ‥駄菓子屋さんで豪遊したお菓子たちを無駄にしてたまるか‥‥!」
「駄菓子屋で買い物は豪遊って言わなくね?」
「うげっ!」

思わずつんのめるようにして立ち止まるも、止まる気のないらしい声の主は、「遅れるぞ〜」などと言いながら先々進んでいってしまう。

「いや待ってよ!てか御幸なんでここに?!!あっ迷子??」
「ははは、苗字じゃあるまいし」
「んだとコラ」

ガツンと頭を殴ってやろうかと手を伸ばすもやたらと荷物の入ったリュックに阻止される。くそ、次は私のお菓子まみれのリュックで勝負してやる。

「んで、マジで何してたの 朝練は?」
「校外学習だから今日朝練なかったんだよ」
「はあ‥‥つまり?」
「つまり‥‥」

無駄に間を開けたかと思うと、無言で信号を待つ御幸。言う気がないのかあるのかどっちなんだと突っ込む寸前、目の前の信号が青になり、それに合わせて御幸がやたらと笑顔でこちらを向いた。

「‥‥寝坊だな」
「寝坊かよ!!!!」
「いやー昨日の長澤ちゃんがあまりに可愛くて可愛くて‥」
「あ、アレでしょあのプライベート語るやつ!堀北ちゃんが出てたから見た」
「可愛かっただろ?」
「可愛かったよ、堀北ちゃんの次にね」
「いや長澤ちゃんが」
「いやいや堀北ちゃんが」




終わらない問答を交わしているうちにバス乗り場へ到着したようで、御幸から顔を逸らし乗り場の方を見ると、今まさに数台の車が飛び出そうとしていた。
ここまできて置いてかれるのかと心底落胆したけれど、ひとつのバスの階段から先生が降りてきてくれた。神よ!と急いで近寄るも、近づいた瞬間にこっぴどく叱られた。くそ、普段優等生で通してるのに。

時間もないのか怒られる時間は1分もなく、そのまま後方の空いてる席に座れと指示を受ける。先生の指差した先に行くと呆れ顔の倉持くんと、その後ろに二つぶんの空いた席があった。

「なんで御幸の隣の席なの」
「てめーらが仲良く遅刻するからだろーが」
「まあまあ、バスでも仲良くしよーぜ苗字チャン」
「きも‥酔ったら御幸の顔に吐こ‥」
「それはカンベン」

その後、機嫌直せよと御幸にキャラメルやらソフトキャンディやらをもらって食べた後、夜更かししたせいかグースカ涎を垂らして寝こけてしまった私は、到着と同時に顔を上げた瞬間、横にいた御幸に「ブサイク」と爆笑される羽目になるのだった。



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