「俺が会いたいんだから、学校来いよ」
クラスメイトの前に立ち、視線を感じながら話さなければならない面倒な企画委員を押し付けられ、
逃げるように学校を休んでいて、文化祭が終わってから登校するのもなあ、なんて。
引きこもりの第一歩を踏み出そうとしていた私に、先生は電話で開口一番にそう言った。
授業も厳しくて、ちっとも楽しくなくて、せっかくかっこいいのに笑ったとしても引き攣るような怒りの笑みしか浮かべない先生が。
想像できないような優しい声で、私に。
確かに私に、そう言ったのだ。
「おー、苗字。きたのか」
「…おはようございます。」
「正直来ないかと思ってたわ。分かんねえとこもあるだろうけど、まあ頑張れ」
「は、はい」
教室に入る前に声をかけられた。
その会話内容もいつものことが嘘のように優しい。
今日は中間テストだ。
いつもなら不機嫌オーラMAXの笑顔で生徒達を威圧しているはずの先生。
何が何だかさっぱりだけれど、ありがたくその気持ちを素直に受け取って、ふらつく足取りで教室に入った。
一瞬此方へ集まる視線へゾッとしたけれど、特に気にしないフリをして一目散に出席番号順の自分の席へと座る。
ほぼそれと同時に先生も入ってきて教科書をしまうよう乱暴な言葉遣いで生徒達に呼び掛けた。
…いつもの先生だ。
ーーテストが始まって数十分。
私のテスト用紙は左半分が解答済み。右半分が思いっきり白紙。
くそう、また調子が悪くなってきた。
朦朧とする意識のまま、立ち上がって先生にトイレに行きたいと告げる。
トイレで休もうと思ってそう言ったのだけれど、また目の前がチカチカして蹲ってしまう。
心配する先生を余所に、早く休みたい一心で教室を出る。
と同時に、フラフラとまた倒れ込むように蹲った。
ああもう、私こんなんばっかりだ。
……薄れゆく意識の中で、先生の優しい声が聞こえた気がした。
「…やっと起きたか」
「せん、せ…」
起目を開けると、心配そうな先生の顔が視界いっぱいに広がった。
「バカヤロ、具合悪いなら無理すんな」
「…ごめんなさい」
「ったく…」
トントンと持っていた紙を整えて、そこから数枚引き抜いた。
まだちゃんと働かない頭で、ぼーっと先生のことを見つめていると、先生からその引き抜いた紙を手渡された。
「どうせテスト受けなきゃ帰らねーんだろ。保健室で受けさせてやるから、準備しろ」
すぐ後ろから私の鞄を掴み、私に渡す。
わざわざ持ってきてくれたのかと思うと、自分が情けなくて目頭が熱くなった。
目の前がまだチカチカして、ほとんど問題なんて解けなかったけど、
テスト終了と同時に教室回りで忙しかったはずの先生が急いでまた保健室にやってきて、体調は大丈夫かだとか、テストの点なんて気にするなよだとか、優しい言葉を投げかけてくる。
あんなにあんなに、テストの点にうるさい先生なのに。
「…お、でも大分顔色良くなったな」
そう言うと私のテストを取ろうとした手が、そのまま私の方へ伸びて、
ぽん、と。頑張った子供を褒める親のように優しく、頭を撫でた。
「お疲れ。よく頑張ったな」
あれ、なんだろ。
「気をつけて帰れよ」
私、宮地先生のこと好きかもしれない。