なまえがそう言ったから、俺は無我夢中でバレーをやった。勿論、それだけの理由でバレーをしているわけではないし、続けているわけでもないけれど。それでも、その言葉は俺のバレーをする原因のひとつになるには、充分すぎる言葉だった。
バレー部で副部長となった時、なまえは「バレー頑張ってて、みんなにも認められて、凄いね、かっこいいね」と俺を褒めた。照れ臭くてなんでもないように繕ったが、口元が緩むのは抑えられなかった。なまえの理想に近づけている気がして、少し、鼓動が早くなった。
ある日、名前は知らないが顔には見覚えのある隣のクラスの女子に告白された。気持ちは嬉しいが今はバレーに集中したい、とお決まりの文句を並べたてて断ると、その女子生徒は寂しそうに、「それなら仕方ないね」と笑って去っていった。女子生徒が見えなくなると、どこで聞いていたのか、やけに楽しげな表情をしたなまえが俺の前に現れた。
「京治、本当にかっこいいね、今のセリフ、惚れ惚れしちゃった」
そう言って嬉しそうに微笑んで見せるものだから、俺は前と同じように口元を緩ませた。その表情を悟られないように顔を背けて、なんでもないように取り繕う。「さすが京治」、なんて悪戯っ子のような声で呟くなまえに、思わず振り返る。
「どうしたの?」
「………あ、いや」
まるで神様でも見るかのように、手の届かない国宝でも眺めるかのように、憧れのアイドルを遠くから見つめているかのように、なまえは、俺に微笑んだ。
ぞわり、とした感覚が俺の身体中を駆けて、急激に頭が回り始めた。どうして今まで気付かなかったのか分からなくて、指先からゆっくりと冷えていくのが分かった。近付いたと思った理想は、酷く息苦しくて、生き辛くて、夢のように脆くて、こんなことなら、気付かないままでいたかった。
彼女に手をつけてしまえば、俺は彼女に愛してもらえない。