The third day
シンドリアに来て三日目、私は退屈でやることのなかった二日目と違い、シンドバッドさんにシンドリアを案内してもらっていた。
これがなかなか楽しくて、気付いた頃には辺りが暗くなり始めるくらい、私は観光を楽しんでいた。すると、
「なまえーーーーー」
「…? この声って…」
次第に大きくなっていくその声は、やはり聴き間違えようもない愛しい人の声だった。
近づいてくる漆黒は、やがて刻々と姿を現す。
「ジュダル!!」
驚いて目を見開いていると、ジュダルはいかにも機嫌が悪いような態度で私を足蹴にする。
痛い痛いと抗議をしてもジュダルは知らん顔だ。
「いいいたい!な、なんでこんなことするの?!てか、なんでここに…?」
「てめーがいつまで経っても帰ってこないからに決まってんだろーが!呑気な顔して街中歩きやがって」
首に腕を回しグイッと引き寄せられる…のは、彼にとってスキンシップなのかもしれないけれど、なかなか苦しい。
首がしまっているとわかっていてやっているのだとすれば尚更たちが悪い。
「なんだジュダル、なまえに会えなくてさみしかったのか?」
今まで会話を黙って見ていたシンドバッドさんが私とジュダルの会話に割り込んできて、そう煽った。
小学生のような挑発にまんまと乗っかかったジュダルは鋭い視線でシンドバッドを睨みつける。私を閉じ込めている腕には、まだ力がこもったままだ。
「………は?ちげえよ、こいつがすぐ帰ってくるっつったのに全然帰ってこねえから…」
「まだ三日しか経っていないぞ?来るのにも時間がかかっただろうに」
「何が言いてーんだよシンドバッド…」
「わー!わー!!待って!二人とも落ち着こう!!?」
今にも喧嘩をおっぱじめそうな二人に慌てて仲裁に入る。シンドバッドさんはまだしもジュダルは引かないかな、と思っていたけれど思いの外すぐにいつもの表情へと戻った。
「…こいつは連れて帰るからな」
「ああ、また来いよ、なまえ」
「え、あ、はい…」
「その時は俺も一緒にきてやるよ、喜べシンドバッド!」
私の言葉をかき消すかのように無駄に大声をあげて、ジュダルはすぐさま私を絨毯の上へと乗せた。
ああ、まだまともにみんなと別れの挨拶もしてないのに、と思った時にはシンドリアは小さくなっていた。
「…なんだよそんな顔しやがって、まだバカ殿と居たかったのかよ」
「ううん、次はいつになるかなあって」
「…………………」
見るからに不機嫌なジュダルに、私はどうすればいいのか分からない。
前と違って、ジュダルは私の事なんか全然好きじゃない。
だから、ジュダルは私がここに来る前に知ってたジュダルと何ら変わらないし、想像そのままのはずなのだけれど、どうやらそううまくもいかないみたいだ。
「あ、あのねジュダル!ここに来てすぐにみんなでご飯食べて、いっぱい騒いだんだけど…」
「……………………」
「その、いつかジュダルと、紅玉ちゃんとも、一緒にそんなことできたらなあ、って思ってて、えーっと…」
叶うことがあるのかわからない願望を、話す度に機嫌の悪くなっていくジュダルに向かって話し続ける。
だんだんと声が小さくなってしまったから、聞こえてないかもしれないと思っていたのに、ジュダルはこちらを少し嬉しそうな顔で見て、私にこう笑いかけたのだった。
「じゃあそん時は大量に桃買わねーとな!」