The last day
目を覚ますと、ジュダルはにっこり笑って私を優しく撫でてくれて。
その手つきと同じように優しく愛を囁いて。
シンドバッドさんが言ってたことは嘘だったんだ。ただの勘違いだったんだ。
そんな、甘い夢を見ていた。
まだ目が腫れているのか、彼女は目を開けるのを少し戸惑った。
けれど、開いた目の先に確かな存在を見つけて、痛みを振り払う。
冷たい手は今もまだ彼女を抱き寄せたままで、彼の体温にほんの少し安堵する。
「………ジュダル」
その体温とは裏腹に、彼の瞼は重く閉じていた。
――本当に彼の心は此処に在るのだろうか。
ふとそんな事さえ信じられなくなった彼女は、彼の顔へと手を伸ばした。
その手に触れたと同時に、ジュダルは薄く目を開いた。
「! あっ…じゅっジュダ、」
「………おまえ…」
手を引っ込めて逃げようとしたけれど、すぐに彼の冷たい手にがっしりと掴まれてしまう。
夢で見ていた優しい手つきなんて嘘のようで、射抜く瞳も優しさなんて今のなまえには感じられなかった。
「ああああの!ご、ごめんなさい勝手に布団入って!出る!出ますから!」
「…何バカなこと言ってんだよ」
「え、いや、だって、あの」
掴んでいた手を引っ張り、ジュダルの顔が目の前に見えるほどまでに近付かされる。
なまえが思わず固まって抵抗する力を失ってしまっていると、ジュダルが小さくため息をついた。
「この嘘吐き」
「え?」
「何が「全部忘れちゃう」だ!ただのハッタリじゃねえか!」
「う、嘘じゃ…あ、あれ…?」
言葉も、仕草も、全部全然優しくなんてないけれど。
これっぽっちも彼女のことなんて想っていないけれど。
「忘れてなんかねーよ」
その深紅に映っているのは、確かになまえだった。
「…なんで…?どうして…?」
「憶えてるって、言ったろ」
確かに彼は昨日そう言って彼女を宥めた。
けれどなまえは、昨日の彼は信じていたが、今日の彼は昨日の彼と違うと思い込んでいた。
「そりゃ今となってはなんでお前なんか好きだったかちっとも理解できねーけど…」
「う…そ、そこまで言わなくても…」
「それでも、俺はお前と会って変わった。」
空を見るようになったのも、
花を見るようになったのも、
誰かに会いたいと思えるようになったのも、
誰かを愛おしいと思えるようになったのも、
「全部、お前のせいだ。」
「…なんか、シンドバッドさんの思う壷って感じだね」
「……そう言われると釈然としねえな…」
その言葉にくすくすとなまえが笑っていると、
ジュダルは穏やかな顔で彼女の頭を撫でた。
「…バカ殿のおかげだとしても、俺は、なまえに会えてよかったよ」
「………!!」
彼女はふと、今朝見た夢を思い出した。
目が覚めたときはあれが嘘のように思えていたのに、今は正夢だったのだと信じている。
運命はすごく意地悪だ。
けれど、この運命の導きは、きっと、本当の彼の笑顔に繋がるだろう。
それなら、私は、
「…あ?お前何泣いてんだよ?」
「……ジュダルぅう〜…!!」
「おわっ!?おい、鼻水くっつけんなよ!」
「じゅだ、じゅだるぅ…すき、わたしも、よかったよぉ…」
「…はあ、…ったく…」
また彼に、恋をしよう。
(ジュダルに、恋する。)
目が覚めたと同時に、元の自分に戻ったんだと思った。
今までのことが嘘のように思えてきて、今までの自分が気持ち悪く感じた。
けれど同時に、心から大事な感情が消えてしまったように思えて。
元の自分には戻れたけれど、俺ではなくなってしまったような気さえした。
あいつのことなんてもうちっとも好きじゃない。
強いてあいつの存在を解りやすく言うなら、泣き虫で弱虫なくっつき虫。
最後にあいつを抱きしめたのだって、あいつがいくら宥めても泣き止まないからで、
あいつが好きだからでも、愛してるからでもなんでもない。
――けど、俺も
(お前のことが、好きだったよ)
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