The first day
拝啓、母上様父上様。お元気ですか。私はいろいろありましたがとても元気です。今私は此方にきてすぐにお世話になったシンドリアにきております。
その後の報告と、これからどうするかを決めたことを伝えるためです。今は、とてもお忙しい国王様のために、待合室で待たせていただいてるところなのですがーーー…
「なまえさん、こちらへどうぞ」
「あ、はあい」
ジャーファルさんに促され、国王であるシンドバッドさんのところへと歩いて行く。
私の顔を見たシンドバッドさんは、相変わらず信じていいのかよくないのかわからない胡散臭い微笑みを向けた。
「お久しぶりです、シンドバッドさん」
「いや、よく来てくれたね。…というよりは、帰る他なかった、という感じかな?」
私にそう笑いかけたシンドバッドさんに、少しむっとする。
騙された、と言えば聞こえが悪いかもしれないが、確かに私は彼の発言で混乱させられたのだ。
「…とりあえず無事ジュダルの洗脳は解けました」
「洗脳って…」
「それから、紅玉姫ともお近付きになりました。それはもちろん惚れ薬関係なく」
「まあ惚れ薬を飲んだのはジュダルだけだからね…つまり?」
「煌帝国に置いていただけることになりました。私も友達がいるところの方が楽しいですし」
深々と頭を下げて、こっそりシンドバッドさんの様子を伺うと、顎に手を当てて何か思案してるようだった。
「…それで?」
「? はい?」
「それだけを言いにわざわざ来てくれたのかい?俺には何か言いたいことがあるように見えるが」
……この人は、本当に。
つくづく凄いけど、本当に、本当にムカつく人だ。そう思いながらすうっと息を吸い込んだ。
「バカ!!!!!」
何も考えず無我夢中で叫んだそれは、廊下の見張り番の人が音を立ててしまうほど大きく、耳をつんざくような声だった。
さすがのシンドバッドさんも、すぐ横にいたジャーファルさんでさえ驚くほどの、子供のような駄々だった。
「なーにが君の事は綺麗さっぱり忘れてしまうだろう、ですか!!ジュダルちゃん全然忘れてないじゃないですか!!!!!」
「え、そうなのか…?」
「そうですよ!!おかげでジュダルちゃんに怒られました!!!よくも無駄な心労させてくれましたね!!!!!」
本能のままにぷんすこ怒っていると、ジャーファルさんが落ち着かせようとなのか元々そのつもりだったのか料理を運んできて下さった。
極めつけはこれでも食べて機嫌を直してください、と申し訳なさそうに笑うその素敵なお顔。
これで許さない女性なんていないと思う。ジャーファルさんは本当にお母さん…いや、聖母か何かだと思う。所詮人間は優しさには抗えないのだ。
「今回はジャーファルさんの愛らしさに免じて許してあげますけど次はもうちょっと気をつけて喋ってくださいよね!」
「…あ、ああ。気をつける」
そこからシャルルカンさんやヤムライハさん、ピスティさん達がわらわらと集まってきて、突然酒盛りを始めた。
私は未成年なので!とお酒はなんとか断ったけれど、その楽しげな雰囲気に酔ってしまった私はそのまま一緒になって騒いだ。いつかお酒が飲めるようになったら…ううん、そうじゃなくても、また煌帝国で紅玉と…ジュダルちゃんと、楽しく過ごしたいな。
「…………」
「予想外の結果ですか、シン」
「……そうだな、最初に想定した以上の、な」
シンドバッドは大勢の輪の中で笑っているなまえを見やる。
「まさか記憶が消えない位彼女を大切に想っていたとはな…」
「……彼女だから…なまえだったからこそ、かもしれませんね」
シンドバッドは肯定の代わりに小さく微笑んだ。
そしてゆっくりと立ち上がると酒を飲もうと騒ぎの中に近づいて行こうとして、ニコニコとしたジャーファルに止められるのだった。
……母上様父上様。私は今とても気分も居心地も良いです。一刻も早く帰りたいだなんて思っていたことが嘘のように、充実感に満ち溢れています。どうか、母上様父上様も身体にご自愛くださいますよう。
私はどうやら、ようやくご自愛できそうな次第でございます。敬具