(あ、わたし。この人と結婚する)
すれ違い様にそう確信して、思わず振り返る。
名前も知らないけれど、日に照らされた金髪が星屑みたいに光る、綺麗な人だった。
▽
「金髪の人ぉ?」
「うん、そう。このクラスに金髪の人いる?」
唯一の手がかりを片手に、とりあえず隣のクラスの友人にそう聞いてみる。
教室の入口で話していたので、人が通るたびに髪をちらりと見てみるけれど、金髪ではない。
「よくわかんないけど、成宮くらいしか心当たりないよ」
「なるみや、くん?」
「‥‥もしかして、知らないの?」
目を細めてじろりと見られて、なるみやくんという人が有名人だと察する。ごめんと正直に謝ると、まあなまえだしねと事なきを得た。
成宮くん。どうやら野球部のエースらしい。しかし私は野球とかエースだとか言われてもちっともピンとこない。強いて言うならば、イチローが野球選手ということくらいは分かる。でもそれ以上はわからない。たとえば、ホームランが何点なのかもわからない。そもそも、エースと言うのは何をする人なのだろう。友人に訊こうとして、言葉を飲み込んだ。
「‥‥‥いた」
「え?どこに?」
遠くで友人が私の名を呼んでいるのが聞こえる。けれどそれも耳に入らないくらい、私は無我夢中で走った。酷く息がし辛いし、胸がどきどきしていて、口から全部飛び出てしまいそうだ。でも、手を伸ばせばその星にもうすぐ届きそうで、掴めそうで。
逃してたまるか、という思いで彼の腕を掴んだ。
「あのっ!!」
すれ違い様遠目で見た時よりも、数段ときらきらした輝きが目に止まる。
やっぱり、綺麗だ。星の草原があったとしたら、きっと同じくらいきらきら輝いて、そよいでいるのだろう。触れると温かくて、優しさに包まれたような感覚になる、そんな煌めきだ。
ぼうっと見惚れたままの状態でいると、成宮くんであろうその人は、一瞬怯むようなそぶりを見せてからにこりと笑って、どうしたのと尋ねてきた。思ったより、可愛い声をしている。
「あ!えっと、なるみやくん、ですか?」
「えっ? う、うん。そうだけど‥‥」
私のことをファンか何かと思っていたらしい成宮くんは、にこにこ笑っているけれど、心までは笑っていないような表情で、何?と呟いた。
「わたしと結婚してください!」