(あ、わたし。この人と結婚する)




 すれ違い様にそう確信して、思わず振り返る。

名前も知らないけれど、日に照らされた金髪が星屑みたいに光る、綺麗な人だった。

















「金髪の人ぉ?」
「うん、そう。このクラスに金髪の人いる?」


 唯一の手がかりを片手に、とりあえず隣のクラスの友人にそう聞いてみる。
教室の入口で話していたので、人が通るたびに髪をちらりと見てみるけれど、金髪ではない。


「よくわかんないけど、成宮くらいしか心当たりないよ」
「なるみや、くん?」
「‥‥もしかして、知らないの?」


目を細めてじろりと見られて、なるみやくんという人が有名人だと察する。ごめんと正直に謝ると、まあなまえだしねと事なきを得た。


 成宮くん。どうやら野球部のエースらしい。しかし私は野球とかエースだとか言われてもちっともピンとこない。強いて言うならば、イチローが野球選手ということくらいは分かる。でもそれ以上はわからない。たとえば、ホームランが何点なのかもわからない。そもそも、エースと言うのは何をする人なのだろう。友人に訊こうとして、言葉を飲み込んだ。


「‥‥‥いた」
「え?どこに?」


 遠くで友人が私の名を呼んでいるのが聞こえる。けれどそれも耳に入らないくらい、私は無我夢中で走った。酷く息がし辛いし、胸がどきどきしていて、口から全部飛び出てしまいそうだ。でも、手を伸ばせばその星にもうすぐ届きそうで、掴めそうで。

逃してたまるか、という思いで彼の腕を掴んだ。



「あのっ!!」


すれ違い様遠目で見た時よりも、数段ときらきらした輝きが目に止まる。
やっぱり、綺麗だ。星の草原があったとしたら、きっと同じくらいきらきら輝いて、そよいでいるのだろう。触れると温かくて、優しさに包まれたような感覚になる、そんな煌めきだ。

ぼうっと見惚れたままの状態でいると、成宮くんであろうその人は、一瞬怯むようなそぶりを見せてからにこりと笑って、どうしたのと尋ねてきた。思ったより、可愛い声をしている。


「あ!えっと、なるみやくん、ですか?」
「えっ? う、うん。そうだけど‥‥」


私のことをファンか何かと思っていたらしい成宮くんは、にこにこ笑っているけれど、心までは笑っていないような表情で、何?と呟いた。



「わたしと結婚してください!」






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