じめじめと纏わりつくような暑さから、からりと晴れて渇いた暑さへと変わり始める。待ち焦がれた夏が近付いてきた。とは言えやはり練習外でまで気を張れるほど暑さに強いかと言われればそうでもなく、冷房の効いた教室でだれている訳だけど。

冷房が効いているからか、教室から出ようとする奴は多くない。かく言う自分もその一人で、何か飲み物を買いに行こうと思っていたはずなのにどうも手足が動こうとしない。俺の身体も、涼しいところに居たいんだって。練習してない時くらい甘やかしてあげないとさ。

そこまで考えて、ふと気がついた。


「‥‥星原の奴、来ないな」


さては奴も暑さにやられているのだろうか。‥ということはつまり、涼しさと俺を天秤にかけたら涼しさの方が大事ってこと?!
そう考えると無性に腹が立って、外に出れば暑いという事実も忘れて、大足で廊下に出る。よく考えたら俺、星原のクラスなんて知らないじゃん。そんなことが脳裏に浮かんだけれど、教室で涼んでいると思っていた星原は、廊下でひとりじいっと外を眺めていた。


「‥何してんの?」
「わあっ?!」


 声をかければ大袈裟にびくりと肩を揺らし、目を丸くしてこちらを向いた。何故いるのかとでも言いたげな表情をしていたけれど、答えてやるのも癪で何してんのと繰り返した。


「‥‥空、見てたんです」
「空?」
「夏の空って、どこまでも青が広がってて、まるで海みたいに綺麗だから‥‥」


じいっと外を眺める星原に、思わずどきりとする。‥‥この前から、こんな風によく調子が狂う。脳も心臓も馬鹿になったんじゃないかとさえ思う。空が海みたいって、なんだよ。空は空だし、海は海だろ。心の中で悪態を吐くけれど、星原は変わらず外に視線をやっている。遠くを見つめる星原は、まるで遠い存在のようで、消えてしまいそうで。それでいて、どうしようもなく綺麗に見えてしまうから、嫌いだ。

そんな自分から目を逸らしたくて自販機に向かえば、星原がぱたぱたとついてくる音が聞こえた。


「星原も何か買うの?」
「買わないですけど、せっかく成宮くんと出会えた記念について行こうかなーと!」


 振り向いて見た彼女は、そう言って元気よく笑った。なんだよ、いつもの星原じゃん。意識してしまった自分がバカみたいに思えて、愛想のない返事をしてからそのまま自販機へと歩を進めた。

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