仮初



「なんかデートみたいだね。」

唐突にぼそりと呟いた佐々木一等を前に、私はコーヒーを吹き出しそうになった。結局佐々木一等に付き添ってもらい、近くの大型ショッピングセンターで買い物を堪能している。少し休もうとカフェで一息ついているところ、いきなり彼がそんなことを言うので、動揺してしまった。

「そうですかね……?」

「僕と菊池さん、2歳しか年も変わらないし、今私服だし、はたからみたらカップルだよね」

「あぁ……まぁそうですかね……」

「あ、ごめん。こういうこと言うとセクハラとかになっちゃうかな」

「いえ……気になさらず」

戸惑う私を見て、佐々木一等が慌てて謝る。彼のことだから無意識で何気なく口にしたのだろうが、異性と出かけるなんてことをここしばらくしていないものとしては妙に意識してしまう。周りの席には空きがなく、多くの人で賑わっている。カップルだったり、友達同士だったり、家族連れだったり。それぞれがそれぞれの世界を楽しんでいる。側から見れば私たちもその一部。普通に買い物を楽しんでいる、恋人同士にみえる。

「佐々木一等はよく買い物行くんですか?」

何か話題を振らなければ、と思った際に浮かんだ投げやりの質問だった。昔からどうにも他人との沈黙は苦手で、何かしら喋らなくてはと思ってしまう。

「うーん…本屋はよく行くけど、それ以外のところはあんまり」

「でも、服とかお洒落ですよね」

「え、そう?」

「なんか意外でした」

悪戯に笑みを浮かべて言って見せると、「ひどいなぁ」と佐々木一等は軽快に笑った。実際に、彼の選ぶものはセンスが良いように感じた。気の抜けすぎない大人カジュアルな服装は彼にとても似合っている。いつものスーツ姿ではないと、別人のようにも思えてくる。

「女性と二人きりで任務以外に出かけるのは初めてだから、ちょっと気合い入れちゃった。」

一呼吸置いた後、彼がはにかんでそう言うので、私は固まってしまう。彼は天然タラシなのかもしれない。そんな風に言われて、男女というものを意識しないわけにもいかない。

「……アキラさんとは出かけたりしないんですか?」

内心慌てた末、咄嗟にアキラさんの名前を出した。そういえば元パートナーだったのだから、何かあっても良さそうだ。

「あー…。任務の帰りにご飯食べるのに付き合ったりとかはあるけど、休日に会ったりはさすがにしないなぁ」

「そうなんですか」

話題がまた一つ尽きてしまった。つぎはどうしようと考えていると、佐々木一等がふふ、と笑いだすので、私ははたまた動揺した。

「菊池さん、すごく気を使ってくれてるよね」

「えっ」

「アキラさんから聞いたんだ。菊池さんってどんな人なのかって。そしたらね、普段は破天荒だしドジでうるさいって言ってたよ」

「……げっ!」

思わず女性らしからぬ声を上げてしまった。アキラさんは私のことをそんな風に思っていたらしい。確かにその通りだが、随分と言ってくれる。

「こう言うのも図々しいと思うけど、僕には気を使わないで欲しい。ありのままの君を見せて欲しいな」

「ありのまま……ですか」

「そう。僕に遠慮なんてしなくていいよ」

そうは言われたものの、いきなり気を使わないで過ごすのも難しい。仕事とプライベートは分けたいところだし、相手は上司だ。

「いきなりそんなこと言われても……」

「じゃあ今は僕を友達とでも思ってよ」

にっこりと笑う佐々木一等を目前に、私は苦笑した。友達か。そういえば私、友達いたっけな。仲の良かった同僚は梟戦で死んだ。家族が死ぬ前にいた友達とは、CCGに入ってからは会っていない。友達という存在の意義を、なんだか久しく実感した。友達と遊びに行くどころか会うことさえ、何年もしてないような気がする。

「本当にいいんですか?」

「ん?」

「今日一日、私の友達になってくれますか?」

こんなつもりではなかったのに、私の口からは勝手に言葉が飛び出してしまう。昔から言うつもりのないことを言ってしまったり、考える前に口から言葉が出てしまうことが多いのだ。佐々木一等は私の言葉に驚いて数回瞬きをしてから、意味ありげに優しく微笑んだ。

「もちろん」

この人は不思議だ。時々、何を考えているのかわからない節がある。見た目からしてミステリアスだけれど、彼自身が彼のことをよく知らないという事実が、その雰囲気を作っているのかもしれない。

「じゃあ、さっき素通りしたスウェーデン輸入の雑貨屋と良さげなブーツをキープしてた1階の靴屋と、佐々木一等がいるから入るのやめた2階のランジェリーショップと、自分用のコーヒーメーカーが欲しいから3階の家電屋に行きたいです。あと西館の方にもカフェがあるのでそこにも。それと4階に映画館があるから映画もみたい。一緒に来てくれます?」

佐々木一等がいるからといって遠慮してきた今日の行動を思い出せるだけ思い出し、呪文のように言葉にする。これでいい?そう言うかのように目配せすると、驚いて固まっていた彼は声を出して笑った。

「あははっ!……いいよ!でもランジェリーショップにはついていけないから、僕は外で待ってるね」

気恥ずかしそうにそう言う彼は、今は上司というより、普通の青年に見える。たまにはこうして普通の人間と同じように過ごすのも悪くない。捜査官でも、喰種でもなく、何事もなく普通に暮らす、人間のように。


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寝耳にミサイル