勉強と特訓
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あの襲撃があってから数日。
心身共に完全に快復した私は今、船の甲板にてペンギンさんから特別講義を受けている。主な内容は、グランドラインのこと、悪魔の実のこと、海賊のこと、ワンピースのこと等だ。
「―――と、まぁ、今日はここまでにするか。」
『はい、ありがとうございました。次の講義は、大海賊時代に入ってからの歴史ですね。』
「そうだな。ナツミは物覚えが良いから、こっちも教えがいがある。さすが船長と同じ医者を目指すだけのことはあるな。」
『そんな…私なんてローさんに比べたらまだまだです。それに、ペンギンさんの教え方が上手なんですよ。分かりやすいし、面白いので、どんどん頭の中に入ってくるんです。』
「……そうか。」
ペンギンさんはフワリと微笑むと、私の頭を軽く撫でた。
その気持ち良さから、少し瞳を細める。爽やかな海風と共に、暖かな気候がより一層心地良さを演出してくれていた。
その時だ。不意にペンギンさんが私の後ろを見遣る。釣られて振り向けば、シャチとベポが新聞を片手にこちらに向かってきているようだった。私の耳が正常だったならば、おそらくドタバタと物凄い足音が聴こえていたことだろう。
『二人とも、そんなに慌ててどうしたの?』
「お、ナツミもいたのか!それより見てくれよ。世界各国で情勢の悪化だと。」
「…悪化?」
「アラバスタって国では、国王軍と反乱軍の衝突目前だって!」
「………だが、この船の航路上ではないだろ?」
「いや、だからペンギン。世界各国でこういうことが起きてるんだって!この船の航路の先には、王都カルディナがあるだろ?」
「まさか、カルディナでも不穏な動きが?」
「そうそう。そこの女王が暴政を奮っているらしくてさ。住民は反乱を起こそうとしているって書いてある。行方不明者だって、ほら。」
シャチが示すところを見ると、その英字新聞には著名な行方不明者が写真付きで載せられていた。中には最年少考古学者という肩書きを持った幼い子供の写真もあり、思わず眉間に力が入ってしまう。
「……面倒なことになる前に、先を急いだ方が良いな。特に船長のこともある。船長にはもう?」
「アイアイ。さっき様子を見に行ったら机の上に新聞が広がっていたからキャプテンももう知ってるはずだよ!」
ペンギンは頷くと、足早に船内へと戻っていった。
『……ねぇ、シャチ。ベポ。』
「ん?あー…悪いな。ナツミ。せっかくの勉強会を邪魔しちまって。」
『ううん、今日の分は丁度終わったところだったの。…それより、そのカルディナっていう国とローさんって…何か関係が?』
「え?あ、あー…別に直接関係があるわけじゃないんだけどさ。」
『……うん。』
「……まぁー、あれだ。おれ達は海賊だろ?けど、ログを貯めるためには、必ず島に留まらないといけないしな。情勢が良いにこしたことはないってことだ。」
いつも以上に饒舌に話すシャチを見遣る。確かに、理由は分からなくはないけれど、それがローさんの名前を出す理由にはなっていないことは明らかだ。
「さーてと、そろそろ鍛練でもすっかなぁ。身体も鈍っちまうし。」
ごまかすように肩を回すシャチを見ながらため息をつく。これ以上この話はおしまいだとでも言うようなものだった。
「あ、ねぇねぇシャチ!じゃあさ、今からナツミの特訓をしない?」
「『………………特訓?』」
「この間のこともあるし、できるだけナツミも鍛えておいた方が良いと思うんだ。」
「……いいのかよ?一応、ナツミは女なんだぜ。船長の承諾ももらってないだろ?」
『………それは大丈夫、だと思う。この間、ローさんも最低限自分の身は自分で守れって言ってたし。』
私がそう言うと、ベポはニコニコしながら頷き、シャチぽかんとしている。彼のそういった態度に、私は少し首を傾けた。
「…まぁ、船長の許しがあるなら……良いけどさ。ナツミ、お前もおれ達と特訓するか?」
シャチの言葉に、私は即座に了承の意を唱えた。