怪獣たちの眠る場所4
―――――――…



「なーんか今回、俺出番なかったなぁ。」





車内でぼーさんはぽつりと呟く。


『あら、リンの方が出番なかったじゃない。かわいそうに。』


「ちょ、サヤ!リンさんだって霊現象の機械測定で忙しかったんだよ。ね、リンさん。」





麻衣がフォローを入れたものの、サヤの言葉に運転していたリンはミラー越しにサヤを睨みつけた。



『本当のことだもの。でも、なんだかんだ言って、ナルは良いとこどりよね。』


「……当然だ。」





サヤの言葉にビクビクしている麻衣とぼーさんは冷や汗を流す。サヤがナルとリンの地雷を踏まないように、ととにかく祈っていた。



『ね、そういえばお腹すかない?私、エビギラスの幽霊見たらエビフライ…それかエビの天ぷらが食べたくなっちゃったわ。』



「「今、このタイミングでソレ食べたいの!?あんな事件があった後で?」」





傍観を決め込んでいた麻衣とぼーさんだったが、サヤの非情な発言に思わず突っ込んでしまう。仲良しね、とサヤはクスクス笑っていた。




「そういえば、玉井さんって〈ミラクルマン〉の番組降りちゃったんだよね?」


「スタッフと揉めたって言ってたもんな。けど、俺は玉井さんの気持ちも分からなくもないぜ。」






















並木雄介が立ち去った後。






「話題になったエビギラスをね、今出せと言われているんです。しかし、僕はやりたくない。それでプロデューサーと大喧嘩してしまって。」


「出したくない理由…弟さんのこともあってですか?」


麻衣の言葉に玉井は首を横に振った。




「いや……僕は今までミラクルマンの中で、何百もの怪獣を作って、殺させてきた。大して考えもせずに。」





「どういうことだ?」





ぼーさんの言葉にゆっくりと玉井は口を開く。




「……つまり、単に殺されるためにしか出て来ない怪獣たちだったということです。その怪獣たちにも親があり、子がいたかもしれない、とは考えなかった。」







『エビギラスの子供……それはそれで可愛いわね。』







「「「………」」」







「え、と。それで玉井さん続きは?」



「え、あ、はい。実は何ヶ月か前、ショックなことがありまして。僕には小学三年生の息子がいるんですが、学校から呼ばれましてね。クラスでいじめがあったと。」



「息子さんがか?」





「いじめた側だったんです。それも、先頭に立って。――いじめられた子は、小さいころひどい火傷をして、顔にそのあとが残っています。そういう子を"化け物"扱いしていじめたというので、僕は怒りました。人間として、こんな恥ずかしいことはない。」




『……。』




「先生の前で息子を叱り付けました。そんなハンディキャップのある子をいじめるなんて、人間として最低だ、と。」


玉井はそこて少し間を置いた。






「息子はむくれていましたが、やがて言ったんです。パパだって、いつもみっともない奴をやっつけてるじゃないかって。悪い奴はみんなひどい格好しているじゃないか。―――そう言われて、僕は心臓に刃物を突き立てられたような気がしました。」






「確かにな。そういう番組は一目で悪役と分かるように普通は醜く作るもんだ。」




ぼーさんの言葉に玉井は頷いた。




「しかし、考えてみれば妙です。見た目の醜さが、イコール悪い奴だなんて、見た目にカッコイイのがいいやつなんて、そんな馬鹿な話はない。」





「けど、それは…」




麻衣の話を遮って、玉井は続けた。






「大人は分かってる。でも、子供はどうだろう?――醜い奴はやっつけていい。いつの間にか、そう思い込ませてしまった。そう知った時、ゾッとしたんです。」



「そんなことが…。」







「僕は、脚本の中でその点を変えようとしました。他の星から来た怪獣といっても、悪い奴とは限らない。たとえ侵略しようとしているとしても、戦う前に、まず話し合って戦いをやめさせられないか、と。――プロデューサーはカンカンですよ。結局お互い譲れなくて、僕が脚本家を降りることになりました。」














「まー、そりゃちびっこ達は悪い怪獣をやっつけるミラクルマンが好きなんだもんな。」




『…そうかしら?私はエビギラスの方が好きよ。』



「サヤの方が異常なんだよ。」





ぼーさんとサヤの会話に麻衣は苦笑した。








―――――――…




数日後。


サヤは無事に編入試験を"ギリギリ"でパスした。正しくは"ギリギリ"を狙って書いた答案を提出して合格した試験、になるのだが。



「器用だな。」


サヤから試験結果を聞かされたナルは、ベッドに腹ばいで横になりながらカードを杖でいじくっているサヤを見るとため息をはく。



『当然よ。有能だもの。』

「……。」


『できた!見てみてナル。私の自信作。』


バッとベッドから起き上がったサヤに、ナルは眉を潜めながらも、サヤが見せてきたカードに目をやる。



カードに描かれていた絵…つまりエビギラスが、カードの中で暴れていた。



「……。これは?」


『魔法界では写真もカードも動くのよ。特殊液の効果でね。けど、こっちにはその材料がないから、魔法で動かしてみたの。いやん、天才。』


ナルはくだらないとばかりにカードを放り投げた。と、同時にサヤの抗議の声が上がる。







『………でも、確かにあの方程式は間違ってるわね。』


「何の話だ。」



いきなり真剣な口調になったサヤにナルは眉間にシワを寄せた。




『カッコイイ方が悪役になる場合もあるってこと。私の父様のように。』



「サヤの父親?」



『そう、父様は容姿端麗頭脳明晰唯我独尊……まるでナルみたいな人だったわ。』



「……。僕は君みたいな娘は御免だな。」



『……そうね、私もナルが父親なんて嫌だわ。私の父様は一人で十分よ。』






サヤはクスクスと笑って、床に落ちたエビギラスのカードを拾いあげた。





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赤川次郎《霊感バスガイドシリーズ》が舞台のお話でした。次回からようやく原作に入る……かもです。
ご静読ありがとうございました!
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