公園の怪談1
――――――…



『サヤ・リドルです。身体が生れつき弱くて、欠席することも多いかと思いますがよろしくお願いします。』



「こう見えてリドルはイギリス国籍でな。まー今の時代はグローバルだし、これも良い経験になるだろう。お前達、サヤと仲良くするよーに。」




綺麗に微笑んで見せたサヤに、クラスがざわめく。綺麗やら美人薄命やら賞賛が飛び交い、さらに黒目黒髪の美少女が外国人…ということでますます騒ぎが大きくなった。三十代前半の先生は教室の様子にため息をはきながら、ボサボサの黒髪をポリポリとかく。そして、ひそひそと笑っている男子の一角に目を遣った。



「おーい、そこの男子共。リドルが可愛いからって変な気は起こすなよー。」



先生に注意された男子達を見て、クラスは笑いにつつまれる。サヤは愛想よく微笑みながら、指示された席に座った。






―――――――…






「あ、サヤ、もうここに来てたんだ。どうだった?うちの高校。」


『……どうもこうもないわ。皆して寄ってくるんだから疲れちゃって。お昼くらいに具合が悪くなったって言って抜け出してきたの。』


「アハハハ……お疲れ。うちのクラスもサヤの話で持ち切りだったよ。病弱美少女編入生って。」


『……そう。』



サヤはため息をはくとソファーにゴロンと倒れた。丁度その時にナルがドアから入ってきて、麻衣を見、さらに、だらしなくソファーに横になっているサヤを目にすると眉を潜める。



「サヤ、行儀が悪い。」


『あら、部屋にいる時と変わらないじゃない。いつもはそんなこと言わないくせに。』



サヤとナルで睨み合いが続く中、麻衣はえぇ!?と叫び声を上げた。大声を聞いたサヤとナルは、機嫌が悪かったということもあり、顔をしかめたまま同時に麻衣を振り向く。二人の冷え冷えとした視線を直に受けた麻衣は、虫の居所が悪い二人にこれ以上刺激を与えない方が良いと判断すると、今知った衝撃的な事実を問い質して追求したいという気持ちを真っ先に消し去った。


「ここは職場だ。だらけるなら部屋に戻れ。」



ナルはそう言うと、所長専用の席につく。サヤはフンっと言いながらも身体を起こして、テーブルの上に置いてあった小説を読みはじめた。小説の名前は【公園の魔法】。その小説の題名を見た麻衣は、今日の放課後に学校で友達に相談された公園の話を思い出す。いそいそとナルとサヤのお茶の準備をすると、ナルのデスクにカップを置く際にそれとなく話を持ち出した。



公園にいたカップルに降り懸かる水。それについて調査をしてもらいたいという友達がいる、ということを。




ナルはちらりとサヤを見つめる。その視線に堪えかねたサヤは、苛立たしげに視線を合わせた。

『何かしら。』


「いや。ただ、ここには一人前科者がいたはずだと思い出しただけだ。」


『………言っておきますけど、私じゃないわよ。そんなくだらないことに、能力を使うわけないじゃない。』


「だそうだ、麻衣。サヤが犯人ではないのなら、この件は警察に届けた方が良い。」


玉砕だった。ナルは自分の興味をひく事件しか調査をしない。麻衣はそれが分かっていたため、カラ笑いだけ漏らすとそれ以上は何も言わなかった。







―――――…



暫くしてやってきたのは、原真砂子だった。黒髪を短く切り揃え、着物を着ている彼女はまるで市松人形。隣でぶつぶつ文句を言っている麻衣をお構いなしに、デスクに座っているナルを見つけると綺麗に口元を綻ばせていた。瞳はもう恋する乙女のなんちゃらだ。そんな彼女を観察していたサヤは首を傾けた。



『……誰?』



サヤの言葉にようやく真砂子は視線をナルではなく、ソファーに座っているサヤに向ける。そこで麻衣はあぁ…と言って互いの紹介をしてくれた。


原真砂子。麻衣やサヤと同じ年頃の少女だが、所謂芸能人というやつで霊能力者として有名らしい。麻衣の紹介を聞いても、特に興味がわかなかったサヤは挨拶もそこそこに『そう……』とだけ呟くと、再び視線を小説に戻した。今、サヤが読みすすめていた小説は丁度佳境のページ。主人公がようやく突き止めた公園に住み着いている魔物に喰われるところだった。サヤが口端を上げながら物語の展開を進めるためにページをめくろうとした途端――――




「……邪魔だ。」



ナルの声によって遮られた。ムっとしながらもサヤは一旦顔を上げると、ギロリとサヤを見下ろしているナルの視線とかちあう。真砂子が仕事の依頼でやって来たこともあり、現在サヤが座っているソファーを使いたいらしい。仕方ないとばかりにサヤは身体をソファーを端の方に詰めると、ナルがその隣に座った。向かい側のソファーに座った真砂子はそんな二人を交互に見つめる。



「ナル、その方とはどういった関係ですの?」



訝しげに目を細めた真砂子がサヤを見つめているけれど、生憎サヤは小説に夢中。真砂子の視線には全く気にも止めていないようだった。



「彼女の話は先程麻衣から説明があったと思いますが……それよりも原さん。今回の依頼はどういった内容ですか?」


「……。そうですわね。」



そこで聞かされた内容は――――先程麻衣がナルに相談したこととほぼ同じもの。絶対ナルは断るだろうと踏んでいた麻衣だったが…



「それはどこの公園です?」



今度は割とアッサリ調査を引き受けたナル。真砂子との扱いの差を感じた麻衣は内心かなりふてくされていた。




―――――――…







「サヤ、あたし達公園行くけど、どうする?」


『んー…』


「サヤー。」


「麻衣、放っておけ。時間の無駄だ。行くぞ。」















『ふーん、中々楽しめ……あら?皆どこに行っちゃったのかしら。』


サヤが小説を読み終えた頃、既に麻衣達が公園に行った後だった。先程までいたナル達が見当たらない。



仕方なくサヤは小説をテーブルの上に置いてソファーから立ち上がると、資料室のドアを開けた。予想通り、そこには一人パソコンをカタカタ言わせているリン。サヤが室内に入ってきたことには気づいているはずだが、触らぬ神ならぬ触らぬサヤに祟りなしとでも考えているのか、キーボードを打つ手を止めなかった。……けど、甘い。なぜなら、リンが望んでなくともサヤの方から関わってくるのだから。もちろん、サヤは口を綻ばせながらリンに近づいていった。






『ねー、リン。』


「……。」


『リンちゃん。』


「……。」


『そう。そんなにケナガイタチになりたいのね。』


「……なんですか。」




ケナガイタチにだけはなりたくないと思っているのか、リンはようやくキーボードから手を離した。サヤは、前にもこんなやり取りがあったわね…とおかしそうに笑う。



「……。ナル達なら公園に行きました。」


『あら。私の聞きたいことがよく分かったわね。』


「……。」


『じゃあ、私もその公園に行きたいわ。』


「……どうぞ。私はここの留守番をしていますので。」



『……。』


「……。」



『私は公園に行きたいのよ。』


「……ご勝手に。」


『……。』


「……。」



『リンと行きたい。』


「生憎、私は忙しいので。"一人で"行ってきてください。」



『……。』


「……。」



『……。』



「……。分かりました。ですから私に杖を向けないでください。」


『聞き分けの良い子は好きよ、リン。』




リンに突き付けた杖を懐にしまいながら、ニーッコリと効果音付きで綺麗に笑ったサヤをリンは一度恨めしげに睨みつけたが、すぐに諦めると、深い…それはもうとてつもなく深いため息をはいたのだった。


2011/3/25

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