公園の怪談2
――――――――…
麻衣とぼーさんは公園のベンチに座り、綾子とジョンはそれに寄り掛かるように立っていた。ほどよく離れている向かい側のベンチにはナルと一緒に真砂子が座っていて、麻衣と綾子はその様子を恨めしげに見つめている。
水びたしの被害にあっているのは、どれも仲睦まじい"カップル"の男女。そこで、真砂子が提案したのは"カップルのふりをしてオトリになる"という至ってシンプルなものだった。その言葉に眉を潜めたのはもちろんナルで、麻衣も気が乗らなかったのだが―――
「……良かったな、ナルとデートできるチャンスじゃないか。」
と、ぼーさんにコソコソ耳打ちされてしまえば、すぐに麻衣の頭の中ではそのシチュエーションが繰り広げられる。結局、真砂子の案を採用することになり、今まさに三組のペアが組まれようとしていた……。
が、その瞬間、待ってましたとばかりに綾子はナルと腕を組むとさっそくペア宣言をした。
ナニィィ!?と内心怒る麻衣を他所に、フイっとそっぽをむいていたナルの顎を掴みながら「さぁ、お姉さんと…」と誘惑する綾子。そしてそんな綾子から何食わぬ顔でナルの彼女役をさらっていったのは外ならぬ真砂子だった。
「ナルって、真砂子に弱みでも握られているんじゃないの?じゃなかったら、当然あたしを選ぶはずだし。」
「「……。それはない。」」
不機嫌な顔でブツブツと呟く綾子に、声を揃えて否定する麻衣とぼーさん。その後、綾子の制裁を受けて涙目になっている二人を見てジョンは苦笑しつつ、そういえば…と呟いた。彼は、ナルがこんな事件の調査を引き受けたということに驚いたと言うのだ。ぼーさんもジョンの言葉に頷く。
「ねぇ、そういえばサヤはどうしたのよ。」
「リドルさん…ではりましたっけ。」
「あ、そっか。ジョンはまだサヤに会ってないんだ。」
「ハイな。」
麻衣は苦笑しながら事務所を出る前のやり取りを簡単に話した。
「……意外に読書好きなのね。」
「ナルも「放っておけ」ってさ。」
「そういえば今日はサヤの初登校日だったんだろ?」
「うん、制服も似合ってたよ。」
サヤの服はほとんどナルのように上下とも黒色が多い。だから制服に身を包むサヤはどこか新鮮だったな、と麻衣は事務所にいたサヤの姿を思い浮かべた。そこで思い出したのはナルとサヤの会話。麻衣はぽつりぽつりと呟くように言葉を紡いでいく。
「そう言えば…サヤってナルと一緒に住んでるのかなぁ…?」
「「は?」」
麻衣の独り言に反応したのは綾子とぼーさん。ジョンは首を傾けていた。
「さっきさ、そんな感じの会話をしてたんだ。」
「……。もし、それが仮に本当だとして…ナルとサヤの関係ってなんだ?恋人…って雰囲気もないし、どう考えてもナルは女と同棲するってタイプじゃないだろ。」
「「……確かに。」」
ぼーさんの言葉に麻衣と綾子が頷いた。
「でもよ、俺としてはサヤ個人の方が気になるっちゃ気になるな。」
『そう?どこらへんが?』
「例えば――。……。うぉ!?」
ズザザザザっとぼーさんは驚いて飛びのく。皆が一斉に声のした方を振り向けば、丁度ぼーさんの隣でニコニコしながら座っているサヤ。
『随分と楽しそうな話をしてるじゃない。私達も是非まぜてもらいたいわ。ね、リン。』
「……。私にふらないでください。」
「え……リンさん?」
サヤの言葉に麻衣は首を傾けるが、確かに事務所にいるはずのリンがサヤの隣に立っていた。それもなぜかかなり疲れた顔をしている。
『……あら?貴方は…はじめまして、よね。』
「ハイです。ジョン・ブラウン言います。リドルさんのことは滝川さん達からよう聞いてはりました。」
『そう、こちらこそよろしくね。』
金髪を靡かせながら人懐っこいほほ笑みを浮かべるジョンに、にこにこ挨拶を返すサヤ。麻衣はそんなサヤに「ジョンってば、こう見えてエクソシストなんだよ。」と、コソコソ耳打ちした。
―――――――…
『へー、中々面白…大変なことになっているのね。』
「サヤ、今絶対面白いって言ったでしょ。」
『幻聴よ。』
麻衣のツッコミにサラリと流すサヤ。サヤは横目でリンを見遣りながらクスリと笑った。
『じゃあ、リン。私達も手伝わないわけにはいかないわね。』
「……。」
「それならここはリンさんとあたしが大人の付き合いを――」
綾子はナルの時と同じようにリンの片腕を自身の腕で絡める。サヤはそれをじぃーっと見てから、麻衣に向き直った。
『……。麻衣、もしこの辺りにケナガイタチがいたら可愛いと思わない?』
「え?」
サヤがニッコリと笑いながら麻衣に話題をふると、同時にピシリと身体を硬直させたリン。サヤはそれが分かっていた反応だったのか、ちらりっとリンを見てさらに笑みを深くする。リンは片手で額を抱えながら小さくため息をついた。
「……。松崎さん、申し訳ありませんが私はサヤとペアを組みますので。」
『あら、リン。せっかく綾子に誘われたのに断るの?』
「……。」
『仕方ないわね。麻衣、私達あっちのベンチに座ってくるわ。』
「あ、うん。いってらっしゃーい。」
リンからアッサリ腕を解かれて唖然とする綾子を他所に、サヤとリンはナルと真砂子が座っているベンチの隣のベンチへと向かっていってしまった。
「…二連敗だな。」
「…二連敗だね。」
「ありゃ綾子の奴、心中穏やかじゃねーな。」
「サヤって可愛いもんね。」
「若いしな。」
「おしとやかって言葉が似合うよね。」
「だな、すぐ手を出す綾子とは正反対だもんな。」
「確かに。」
綾子とリンの様子を見ていたぼーさんと麻衣はコソコソニマニマと呟く。だんだんとヒソヒソ声に目くじらを立てていく綾子と、笑うのに夢中で綾子の様子に気づいていない麻衣達を見てあわあわと一人焦るジョンだった。
――――――…
「何を企んでいるのですか?」
ベンチに座って早々リンはぶっきらぼうに呟く。
『随分ね。私を誘ったのはリンでしょ?』
「……そう仕向けたのは貴女です。」
『深読みしすぎよ。私はただ"純粋に"麻衣とケナガイタチについて語ろうと思っただけ。まーちょっと手がすべって"うっかり"呪文を唱える以外、私だってそんな頻繁に魔法は使わないわ。』
リンは確信した。先程、綾子の誘いを万が一でも了承していたら自分はきっとケナガイタチになっていたのだろう、と。正直自分が標的になるなんてあまりに予想外だった。公園に着けばナルと原さんが二人きりでベンチに座っている、それを見てサヤは原さんに何らかの魔法を使うのではないかと危惧していたのだから。
『……リン?』
「何故、貴女はナルの所に行かないのですか?」
『どうして私がナルの所に行かなければならないの?』
あれだけナルを毎晩襲っておいてよく言う。これもナルが言うところの演技か?意味が分からないと首を傾けるサヤの仕草にリンは眉を寄せた。
「……貴女がナルを好いているのだと思っていましたから。」
『私が、ナルを好き?……。それは異性同士の恋愛感情のことを指しているのかしら。』
「……はい。」
サヤは一旦ナルが座っている方向をチラリと見てからゆっくり首を横に振った。
『残念ね。その予想はハズレよ。サヤ・リドルは…生憎、そのような感情を持ち合わせていないもの。』
「……。」
『誰かを好きになれる彼女達がよく分からないわ。そんな気持ち知らないし。』
「毎晩――」
『言ったでしょ。キスは不可効力よ。』
最初にナルの部屋で目を覚ました時に契約をした。契約とは、そもそも"代償"が必要なのよ…お互いにね、と歌うように呟いたサヤにリンは目を見開くと、ガシリとサヤの肩を両手で掴んだ。
「ナルに何をしたんです!?」
『痛いわ、リン。』
「答えてください。返答によっては容赦しません!」
『……。結構よ。そもそも貴方に負ける気がしない。』
サヤはそれだけ言うと杖で火花を散らす。怯んだリンの隙をついて肩に置かれた腕を振り払うと、サッと立ち上がった。そして、リンに杖を向けて一振りをすると、出てきたものは水。リンは杖先から勢いよく噴き出す水を避ける術もなくバシャリと頭から被った。当然全身はびしょ濡れ。
『……女をもっと丁寧に扱うことね。』
サヤはフンっと鼻で笑ってから走り去っていった。
(え、ちょ…リンさんどうしたの!?水びたし…それにサヤは?)
(私に聞かないでください。)
(リンさんや、俺は見てたぜ?強引にサヤを口説くなんて…やるな。)
(えぇ!?リンさんが!?)
ギラリと睨みを効かせるリンに、一同は一斉に口を閉ざすといそいそと持ち場に戻る。
結局、その後はカップルに水をかける犯人――彼氏に二股をかけられてこの公園で亡くなった女性の霊――が真砂子に憑依するが、麻衣達に説得されて無事に成仏を果たし、この件は解決となった。