ミニ旅行6
――――――――…


『…ねぇ、ナル。結局あの教会の真相は掴めたの?』


無事軽井沢から帰ったサヤ達。今はリン、ナル、サヤしかいない渋谷の事務所でふと思い立った彼女は、所長室の部屋に入ろうとするナルを呼び止めると尋ねた。

「……君に説明する必要はあるのか?」


『私だって、あの教会の被害にあったのよ。真相を知る権利くらいあるわ。』


サヤの言葉にナルは考えるそぶりをしてから、手元に持っていたファイルを開くとその資料を何枚か彼女に手渡す。


「―――結論から言うと、あの教会の現象については科学的に証明された。まず、扉についてだが…廃墟になって以来、アレは外側から開けてもらわない限り開かない構造に改築されていたんだ。」


『…は?何それ。』


「恐らく、幽霊騒動のためだろう。封じるという意味をこめて教会内に居る霊が外に出られないように住民達が業者に頼んだそうだ。そのことを知らない観光客が毎年数人、あそこに閉じ込められている。」


『……。』


「ちなみにサヤが聞いたという笑い声――あれも証明できる。」

『……。』


「あの教会は、木材・鉄鋼を5:5で骨組みをされていて、その上からコンクリートで固めるという構造をとっていた。」


『……予算削減?』


「恐らくそうだろう。建物に使われている素材は、常に膨張と収縮を繰り返している。一番膨張率の高い木材を例に挙げると、最大で10%…つまり1メートルの木材が1メートル10センチまで膨張することが知られているが……当然コンクリートや金属も各々異なる割合で膨張する。」

『…ま、そうよね。』


「つまり、当然縮率にも異なりがでてくる。そして、ラップ音は縮率の差が大きければ大きいほど起こりやすいことが分かっている。」


『―――成る程。素材が異なる物で組み立てられたあの教会は、バラバラに縮まってしまったから摩擦が生じて、私はそれを笑い声と勘違いしたのね。』


「そうだ。観光客や住民が言っていた花嫁の幽霊騒動についてだが……そもそも、あの辺りで花嫁が死亡した事実はない。」


『………』

「ちなみに、はた迷惑な誰かが寝ている間にリンともう一度調査に向かったのだが――」

『悪かったわね。熟睡しちゃって。』


「――やはり、マイクやカメラにはそのような兆候は見られなかった。おそらく、シミュラクラ現象が起きたのだろう。」


『シミュラクラ?』


サヤはナルを怪訝そうに見つめた。


「輪郭誘導現象とも言われるな。自分が見たものを脳内で偽装して間違ったイメージを勝手に作りかえる現象のことだ。三つの染みが並んでいれば人間の顔に見えるというように。――あの教会にはマリア像があった。恐らくそれが花嫁に見えたのだろう。そして噂が広まり先入観を植え付けられた者は、さらに花嫁の幽霊だと誤認していく…その繰り返しだ。」



『じゃあ、元々あそこに霊は存在しなかったってこと?魔法が使えなかったことは?』


ナルは、サヤが差し出してきた資料をファイルに仕舞いながらため息をつく。


「君の能力は特殊だから、まだなんとも。ただ言えることは、君自身とあの場所は波長が合わないということだな。」


ナルの言葉にサヤは眉を潜めた。


『波長が合わないって、そんなことあるの?』


「あぁ。稀にある。」



ナルはそう言うだけ言うと、所長室に入っていってしまった。
その一方でサヤはソファーまで移動してポフッと横になると、ナルの言葉を脳内に反芻させながらゆっくりと瞳を閉じた。




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いわゆるオマケ。


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