放課後の呪者4
―――――――…



『もう良いから、その笠井千秋について話して。』


「はい!」


充の架空の耳がピンっとはったような幻覚を見るとサヤはブンブンと首を振る。

これまでも誰かに恐れられ、羨ましいがれ、慕われてはきた。だが、それには必ずそのもの自身の欲望が見え隠れ(隠そうとしない者も稀にいるが)していたため、そこをつけば対処は簡単だ。


だが、この笠井充という女生徒。サヤ自身を慕ってはいても…そういった類のものではないようで………間違いなく、サヤにとって初めて見受けられる部類だった。



「話しは、少し遡りますが…」


夏休みも後半に差し掛かった頃、充が笠井千秋の家に遊びに行った。その際に、丁度テレビで超能力の特番がやっていたらしく、二人は軽い気持ちでその超能力者の真似をしてみたらしい。すると、笠井千秋がスプーン曲げに成功したのだとか(勿論、充のスプーンは何も起きなかったらしいが)。休み明けに、笠井千秋は教室で同じようにスプーン曲げを行い、成功したため一躍この学校の有名人となった。
だが、"インチキ"と彼女を非難するクラスメイトや先生方も多かった。


『火元のないところに煙りは立たない、だったかしら?彼女がインチキをしている可能性は?』


「多分…ないと思います。」


『……そう。ま、良いわ。話しを続けてくれる?』

「はい。最終的に千秋姉さんは全校集会で祭り上げられてしまったんです。この時もなんとか成功はしたんですけど………」


先生方一派はインチキという姿勢を崩すことなく彼女を罵ったため…彼女は壇上で叫んでしまった。"呪い殺してやる"と。


「思えばそれからなんです。学校中で変なことが起こり始めたのは。幽霊が美術室を始めとするあちこちで目撃され、二年五組のとある席になった子が次々事故にあったり、この部室で変な物音や視線、物が散乱するなど悪戯されるようになったり…勿論部室に関しては、皆泊まりこんで見張ったんですけど、結果は同じで。」


ふーん、とサヤは呟く。


『で、貴女は疑ってるの?彼女を。』

「違います!ただ……千秋姉さん、以前はもっと明るかったのに、あの発言をしてから周りからの風当たりも強くなって、今じゃすっかり生物準備室に閉じこもるようになってしまったんです…」


充の表情がみるみる暗くなっていった。


『生物準備室?なぜ。』


「………生物担当の産砂先生が、彼女を擁護してくれる、唯一の人だから。」


『…ふーん……唯一、ね。貴方って意外とスリザリンタイプなのね。てっきり、グリフィンドールかハッフルパフ辺りだと思っていたのだけれど。』


「え?スリ…?」


先程の逆襲として、意地悪なことを思い付いたサヤはクスリと微笑みを浮かべた。



『こちらの話よ。簡単に言うと、貴女は彼女を庇わなかったのねって話。それもそうよね―――誰だって自分の身は可愛いもの。』


「!!………そう、ですね。結局の所、卑怯者なんですよ。私は。」


あわてふためくどころか、毅然としてサヤを真っ直ぐ見つめてくる彼女の姿は、やはりサヤにとっては苦手だった。それどころか、言い訳もしないときた。


「こんな私を、貴女は軽蔑しますか?」


ズーンとなっている充に、少し彼女を虐め過ぎたことに気づいたサヤは、宙を見上げるフリをする。このままでは話しが進まない。

『……。しないわね。きっと、私が貴女だったら、我関せずを決めていたわ。彼女を庇った所で、貴女が出来る範囲には限りがあるもの。根本的な解決にはならないじゃない。』


サヤの答えに、充は目を見開いてポカンとしていた。


こんな初対面の相手に、ナルやリン意外で素を出すことにもっと抵抗があるかと予想していたが、案外一度出してみれば楽なものだった。この少女の愚直なまでの誠実さが成せる業なのだろうか。



『意外?もっと道徳ぶった言葉の方が良かったかしら。』


サヤの言葉に、彼女はバツが悪そうに横を向くと"いいえ…"と呟くように言った。







―――――――…



空が茜色に染まる。
相談に来た数十人の生徒達の話しを全て聞き終え、ナルとリンが情報を整理していた。
小会議室では、ぼーさんがぐったりと寝そべり「俺か、俺なのか?もういっそう泣かせてくれ…」とブツブツ呟いている。


人についてまわるノック音、何者かの足音がついてまわる、眼が痛んで霞む、こっくりさんをやってから狐に憑かれたように奇妙な行動を起こす女子生徒、陸上部の部室で起こるポルターガイスト、開かずの倉庫に現れた首吊りロープ、机に霊が現れてから胃に穴が開いて入院中の生徒、呪われた席に座ると電車に引きずられて怪我をする等の相談が寄せられていた。


症例が多過ぎるためぼーさんは嫌がっているが、除霊できるのが今のところ彼しかいないのだ。麻衣はそんなぼーさんを宥めつつ苦笑していた。

ガラガラと扉を開け、ようやく姿を現したサヤに一同は動きを止める。


「ようやく御帰宅か。どこで油を売っていた。サヤ。」


ナルがギロリと睨むと、サヤはどこ吹く風といった態度で椅子に座る。


『別に。情報収集してきただけよ。』


「そ、それでサヤ!何か分かった?」


険悪な雰囲気を醸し出す二人の間に入るように、麻衣が話しを進めるとニッコリと彼女は微笑む。


『そうね。今回は…元々の発端を辿れば案外単純な事象だと思うわ。専門家ではないから、あくまで予想だけど。』


「サヤ。ってことはお前さん、解決の糸口を見つけたってことか!?」


バッとぼーさんが起き上がると、サヤに詰め寄る。つられて麻衣も、聞きたい聞きたいと寄ってきた。
それらをサヤはヒラリとかわす。


『まだ、分からないわ。忠犬に聞いただけだから、検証もしていないし。』


「「忠犬?」」


「で、君が収集してきた情報の詳細は?」


ナルの言葉に、フンとサヤは鼻を鳴らした。


『……言ったでしょ?あくまで予想よ。ハズレだと格好つかないからまだ秘密。』


そういうと麻衣とぼーさんの二人はブーブーといじけた。


今日はもう遅い。
そのため一度引き上げて、本格的な調査は明日から行うことになった。






ホテルへの帰宅後。
ナルの部屋で資料整理を手伝う傍ら、"ネット"でスプーン曲げについて調べていたサヤ。最初はマグルの産物と高を括っていたのだが、慣れれば案外便利であると感じ始めていた。


「これが、サヤが掴んだ情報か?」


背後から声がかかり、サヤが振り向くとその人物に向けて頬を膨らませた。


『ナル、秘密だって言ったでしょ。何故貴方は―――』


「迅速な解決には情報の共有が必要だ。君のその高いプライドよりもな。」


『貴方にだけは言われたくはないわね。』


「それに――」


真っ直ぐとナルはサヤを見つめると彼女は首を僅かに傾ける。


「ここは僕の自室だ。知られたくないのなら、自分の部屋に行けば良い。」


『あら、いくら言っても私の部屋にパソコンを置いてくれない人が言えること?』


「予算節約だ。」


『よく言うわよ。研究費がたんまりとあるくせに。ケチね。』


「.....君は確かパソコンのことを"マグルの品"と言って当初は散々馬鹿にしていたと記憶しているが。」


『そんな昔の話は忘れたわ。』


「都合の良い頭だ。羨ましい。」


『……それはどーも。』


言葉の押収を繰り広げながら、キーボードをカタカタ言わせるサヤ。今日の分の資料整理は随分前に終わらせていたため、ナルからの小言が降ってくることはなかった。


『ね、ナル。ゲラリーニって何?』

「テレビ出演したユリ・ゲラーの実演によって画面越しに触発され、超能力者として一時的に覚醒した子供達の事だ。実演としては主にスプーン曲げがポピュラーだな。一昔前に日本でもブームになった。」


『ふーん。一時的ね…ってことはいずれその力は消えてしまうの?』


「大半はそうだが、一概にそうとは言えない。能力が覚醒したままの者も僅かにいる。
だが、ゲラリーニの能力は、心身や環境に影響され、酷く不安定であるため、いざ公衆の面前で披露せざるを得なくなった際の成功率はかなり低いと言われている。また、スプーン曲げはマジック手法やてこの原理を用いることにより可能にしてしまうため、その不調を補おうとした一部のゲラリーニの姿を報道された後――――彼らは"インチキ"の烙印を捺されてしまった。」


『どちらも愚かなマグルらしい……と言いたいところだけれど、そういう類は、魔法界でもありそうだわ。で、日本でブームになったのはいつ頃?』


「―――1970年代だ。」


『そう、ありがとう。教えてくれたお礼として情報を一つ。
―――貴方の言うゲラリーニが、あの学校には"二人"いるのかも。』


ピクリとナルが反応する。


『けど、ただの霊現象によるものかもしれないし……そういう視点も含めて調査をしたら?というアドバイス。』



サヤの言葉にしばらく考えるそぶりを見せ始めたナルを、サヤはちらりと伺うと、懐から素早く杖を取り出す。

もはや、日常化してきたその行為にサヤはそっと溜息を零した。










2012/12/26

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