放課後の呪者6
−−−−−−.......

「リドルさん、次はどこに行くんですか?」

生物準備室を出てすぐに彼女に問われ、思案した。数々の現象は多種多様だけれど、それでも重複しているものもいくつかはある。まずはその場所を少しだけ見てみようか、そう考えたサヤは思考を止め振り返ろうとした。


「あ、サヤ!ここにいたんだ。」


呼び止められたため、進行方向を見やればそこには麻衣とナルがこちらに向かってきていた。


『.........貴女達も生物準備室に?』

「え?貴女もって、、、じゃあサヤたちはもう行ってきたの?」


頷く。勿論、麻衣の後ろでこちらを睨んでいるナルを見ないようにして、だ。
ナルが口を開きかけたのを認めれば、笠井充の腕を掴みとりこの場を逃げるようにして走った。


『ちょっと急いでるの。またね。』


麻衣の驚く声を背後に、例の座ったら事故に遭う不思議な席がある教室へと向かった。



『−−−−−−ここがそうなの?』

「え、はい。そうなんですけど、それより良いんですか?さっきのお二人、リドルさんに用事があったんじゃ..........?


『んー、大丈夫じゃない?どうせ後で小言を聞かされるだけだもの。』

両肩をやや上げてため息を吐けば、彼女はそんなサヤの様子を見て苦笑していた。

『....この、机ね。』

生憎、私には何かを感じ取るといった能力は殆どない。目の前に佇む机は、他に並んでいるそれらとは殆ど差がないように思えた。

『.....この机、今でも使われてるの?』


そう問えば、彼女は首を横に振った。この席の主は今はまだ入院中とのことだった。それなら、と徐に懐から杖を出せば隣でギョッと身体を跳ねさせる彼女が可笑しくて口元が上がる。


『安心して、ただちょっと浮かせるだけだから。』


無言で浮遊呪文を唱えれば、例の机はゆっくりと浮かび上がり丁度サヤ達の視線の先で止まらせた。


隣で感嘆の言葉が聞こえる。


「本当にリドルさんって、何でもできるんですね!!」

『...............何でも、ね。寧ろ、何もできなかったから、ここにいるのかも。』


「..........え?」

杖の動きに合わせて机を上下にクルクル回らせながら、隅々まで確認していく。


『何でもないわ。........ところで、これは?』


一度机をおろしてから、机の下に貼り付いていたものを杖で剥がし浮かび上がらせる。木製でヒトガタをなしていたソレは、見たことがないものだった。


「え、何でしょう。何だか気味が悪いですね。」


『ということは、普通...この学校の机には貼られてはいないものってことよね?』

「はい。」

一応、この教室の机を全て調べたけれどヒトガタが出てきたのはあれきりだった。




−−−−−−


笠井充と別れ、小会議室に戻れば既に調査は終えたのだろう全てのメンバーが揃っていた。


「−−−−霊なんていませんわ。」


原真砂子の言葉に一同はギョッとする。ぼーさんや綾子が、これだけの数の現象が起きてるのにそれはないと反論するも彼女は意見を曲げなかった。

一気に雲行きが怪しくなる空間に、ナルは珍しくもその無表情を僅かに崩した。


「......ジーンがいれば。」


『......独り言、漏れてるわよ。』

「...........。」

「え?ナル、サヤ、何か言った?」


「なんでもない。信頼できる霊能者がいればと言っただけだ。−−−−リン、作業に戻ろう。」


ナルのその言葉を皮切りに一度解散となった。麻衣以外のメンバーは再度学校を巡回するらしくゾロゾロとでていき、それを見送った彼女は疲れたように溜息をついていた。


『.........疲れた?』

「え?ううん、あたしは何もしてないし。疲れたなんて言ってらんな−−−ふぁぁあ」


大きな欠伸をしながら目を擦る彼女に苦笑する。呼び寄せ呪文で車に積んでいたブランケットを呼び寄せると麻衣の肩にかけてあげる。


『−−−少し仮眠したら?ナルが来たら起こしてあげるから。』


サヤの言葉に安心したのだろう、麻衣はデスクに置かれた両腕に頭をつけると寝息を立て始めた。

『良い夢を、麻衣。』


暫く様子を見てから大丈夫だと確信したサヤは懐から布に包まれたヒトガタを取り出す。魔法界では触れるだけで呪う物があったりと兎に角物騒な物が多いため、一応対策はしたのだけれどマグルの世界でもはたして同様のものがあるのだろうか。あるとすればどうやって作られたのか。
少し確認したいことがある。もしかしたら魔法界に関するヒントが隠されているのかもしれないのだから。

『.......ちょっと、出かけてくるわね。』

麻衣を起こさないように扉を静かに開けて小会議室を出れば、パシリと腕を掴まれて思わず布包みを落としてしまった。やっぱりね、と心当たりに溜息をつけば、掴まれた腕をそのままにゆっくりと扉を閉める。しんと静まり返った廊下は、まるで二人だけ切り取られた世界のようだった。


『........どうしたの?ナル。リンと作業に行ったんじゃ?』

「........体調はどうなんだ?」


『.......何のこと?』


惚けてみせれば、ナルは溜息をついた。


「顔色があまり良くないと思っただけだ。何もないなら構わない。.....で、それは?」


ナルの視線辿れば、廊下に落ちたヒトガタ。布に包まれていたため中身はみられていないようだ。それならばと、サヤはニコリと彼に微笑みかけた。


『..........女の子の秘密よ。』

「女の子の秘密?」

『あら、聞きたいの?』


そう言うとサヤは足元の布を拾い上げると、ナルの右耳元まで近づき囁きかけた。−−−−女の子が月に一度使うもの、と。すぐに彼から離れると、サヤはしてやったりの顔でナルを見つめた。本当は先週終わったのだが、彼にそれを確かめる術はないだろう。


「............。顔色の悪さはそのせいか?」


『......さぁ、どうかしら。でも、オリヴァー博士がそう思うならそうなんじゃない?』


「おい、ここでその名は−−−−」


ナルがそう言った瞬間、小会議室から声が聞こえた。急いでナルと一緒に室内に入れば、麻衣が息を荒くしながら震えていた。


落ちてしまったブランケットを拾い、埃を払いながら麻衣の傍による。


「.....鬼火が」

麻衣の言葉に首を傾ければ我にかえったのだろう。ブンブンと首を横に振りながら、彼女は寝ぼけてたゴメンとだけ言葉を零した。





−−−−−−

その日の夜。サヤは自室の化粧台の椅子に座りながら、杖でヒトガタをつついていた。化粧台の上に置いたカードの中のエビギラスもギャオギャオ言いながら興味深そうに眺めている。ラスクは狩りをしてくると言い、数十分前に部屋から抜け出していた。


『.......特に、これといった魔法はなし、か。』


溜息をつきながらポイっとヒトガタを床に放り投げると、エビギラスが構ってくれと言わんばかりにクルクルと回り出す。
サヤは杖でカードをつつきながら目の前の鏡を覗き込めば、いつもの見慣れた自身の姿が映し出されていた。

『.......そんなに顔色、悪い?』


今日言われたナルの言葉を思い出す。特に体調がどうこうというわけでもなく、自分ではいまいちよく分からない。

『そろそろナルの部屋に行こうかしら。』

どうせ、あと2、3時間もすれば今日得られた資料の整理を頼まれるのだ。相談者の数もべらぼうに多かったようだし、早めに整理を始めた方が良さそうだ。そう考えたサヤは椅子から立ち上がり後ろを振り向いた。


『..........あら、ノックも無しに不躾ね。どちら様?』


振り向いた先の天井。そこから逆さまに降りて来た長い黒髪に窶れた顔。その両目はギョロリとサヤを睨みつけていた。


サヤは杖を構えると防音魔法をかける。少しでも騒ぎを起こせばナルやリンにこの部屋を追い出されてしまうかもしれないと考えたからだ。


『.........まぁ、とりあえず.......アバダケダブラ』


ダメ元で唱えてみたがやはり緑色の閃光は現れなかった。サヤは溜息をつきながら、金縛りの呪文を唱えるが、先程首元までしか見当たらなかったソレは徐々に下がってきている。それをみとめると、どうやらあまり効いていないらしいことが分かった。

『−−−エクスパルソ』


呪文と共に爆発が起こり備え付けの家具が吹き飛ぶ。辺りは砂煙が巻き起こり、その威力に満足したサヤはニコリと微笑んだ。


『壁には一切穴を開けないこの絶妙な力加減。流石でしょ。』


砂煙が徐々に収まって行くのを見ながら、インカーセラスと唱えて杖先よりロープを飛ばす。けれど、杖から伝わってくる感触に違和感を覚えたサヤは眉間を寄せた。


『............生身じゃない、ってことかしら?』



完全に煙が落ち着けば、先程の物体には傷一つついていない。完全にお手上げだわ、と溜息をつくと自身に防壁呪文−−プロテゴ・マシキマをかけるとその場に腰を降ろした。


『私に触れれば、貴方消滅するわよ......多分。』


それを理解したのかどうかは分からないが、ソレは一定の距離を保ったまま近づいて来ようとはしなかった。こちらには、充分な時間がある。そう考えたサヤは、今迄身につけてきた呪文を思い浮かべていった。


『........とはいえ、殆どが対人対物......ゴースト状のものに効くなんて魔法は......。』


とりあえず、錯乱呪文を飛ばしてみる。微かな奇声をあげながら左右を見渡しているソレを見遣れば、効かないことはないようだと頷いた。


『それと.......バジリスクの瞳......はここにはないし........騎士団が使っていた守護霊の呪文が一番確実ではあるんだけど.......』


呪文も杖の振り方も分かってはいるが、一つ問題なのがその発動条件だ。生憎、その守護霊を出すための充分な幸せな思い出が出てこない。



定期的に錯乱呪文を飛ばしながら、うんうん唸っていれば入り口からノック音が聞こえた。
時計を見れば、あれから3時間は経過している。
おそらくナルが迎えにきたのだろう、そう考えたサヤは思った以上に手こずってしまっているこの状況に舌打ちをした。一度防音魔法を解いてナルに入ってこないよう伝えよう、そう考えが至った時には既に遅く、彼は既にサヤの部屋に入ってきてしまっていた。



「..........これはどういった状況だ?」


『......見ての通り、不審者に夜這いされているってところかしら?』


無表情のままこちらに近寄ってくるナルに表情を強張らせながら盾の呪文をといた。
その瞬間にドクリ、と嫌な感触が身体の中心から響き渡る。−−−まだ早いようだが、時間切れ、だろうか。


「.....夜這い?」


冷や汗が額から流れてくるのを忌々しげに右腕で拭き取れば、目の前のナルとソレを睨みつけた。


『私は、大丈夫だから.......ナルはさっさと部屋を出ていって』


「...............少し待ってろ。」



ナルはそう言うと一度部屋を出て行き、数分とかからず戻ってきた。その手には札のような物を持っていて、サヤが問うより先に、ソレに向かって飛ばす。鼻先にはりついた札を嫌がるような素振りを見せたソレは、短い奇声をあげながらスッと消えた。




『何、今の。ヤツは消え−−−』



サヤが立ち上がろうとすれば、傍に寄ってきたナルに腕を引っ張られる。バランスを崩した二人は、そのまま背後のベッドへと倒れ込んだ。






.














top/main