放課後の呪者7
『......っ!な、何−−−−』
するの!?そう続こうとした言葉はかき消された。ナルの指がサヤの顎を掴むと唇を寄せられる。サヤが抵抗するより先に、彼は彼女の唇に噛み付いた。
『.........っ!!』
その痛さに思わずナルを押し返すが、彼は離そうとしない。それどころか逃すかとばかりにサヤの後頭部に手を添えると力強く押し付けてきた。
ナルの行動に驚き、サヤは大きく目を見開く。漸くして症状が落ち着いたと判断したナルはゆっくりとサヤを解放した。
『.........いきなり、何?』
「症状が出始めていただろ。」
『.............』
「そろそろ意地を張るのはやめたらどうだ。」
『.....意地なんて張ってないわよ』
「一々君に気絶させられるのは迷惑だ。効率が悪すぎる。君は馬鹿か。」
『........馬鹿って...』
「馬鹿としか言いようがないだろう。」
『..............』
ナルの言葉に押し黙ることしかできなかった。
「助けてほしい、どうしてそう言えないんだ?君には強い力がある分、そういった代償があっても不思議じゃない。誰かに助けを求めることは必ずしも恥ずかしいことではないと、僕は思うが。」
『.......。別に初めからこの症状が出ていたわけじゃないわ。』
負け惜しみと言わんばかりに、唇を噛み締めながら彼女は呟く。
「.......何?」
『症状が出始めたのは、この世界−−−−ナル、貴方と出会ってからよ。』
「............」
『とは言え、これは多分......自業自得ってヤツ、かしら。』
「.......自業自得?」
やや迷いはしたものの、サヤは頷いた。それから、ポツリポツリと話し始める。
自身の父が倒された後、奇しくもラスクと二人だけは反対勢力より逃れたこと。いずれ自身が父の娘だと知れ渡るのは必須であったため、捕まり殺されるくらいならば自害しようと考えたこと。その際に自身に使った死の呪文は確かに発動したものの−−−−気がつけばナルのベッドにいたということを。
「............」
『だから、ね。怖くないのよ。症状は確かに、痛いし辛い。けど、一度自身で死んだ身よ?症状発現の延長上でいつ消えようが、死のうが、私自身興味はないわ。』
そう締めくくれば、ナルの様子を伺う。
「.....だったら、君の身体は僕が預かる。」
彼は無表情を崩さなかった。サヤは彼の言葉に眉間を寄せる。意味が分からない、という表情を貼り付けて。
「君は自身の身体に興味がないんだろう。しかし僕は君に興味がある。前にも言ったが、君に消えられると困るんだ。」
ナルの鋭い視線を浴びせられて、一瞬サヤは動揺を見せたが軽く息を吐くとナルから身体を離しベッドサイドに足を降ろした。
『−−−−仮に貴方のものになったところで、私に何のメリットが??それこそ、リディクラス。馬鹿馬鹿しい、だわ。』
そのまま立ち上がろうとすれば、突然強い力で再びベッドに戻される。先程の姿勢と変わらないナルを見上げれば、出かかった文句が消えていった。
『今の.....もしかして、貴方の.....力?』
「君にメリットがない?なら何故、今迄僕にキスをしてきた。いつ死んでも良いと思っているのなら、あの日−−−−君と初めて出会ったあの日でも良かったはずだ。」
『............っ!』
サヤは下を向いたまま唇を噛み締める。先程ナルに噛まれたこともあい余って、口の中に鉄の味が広がっていた。
「君には生きる目的がある......もしくは、この世界に来てから目的が新たにできた。それも中々達成出来ない目的が。違うか?」
『.............。』
「.........沈黙は肯定ととるが?」
ナルの言葉にサヤはゆっくりと口を開く。何度か口を開閉させると徐に言葉を紡いだ。
『−−−−−自分の世界に、帰りたい。』
「................。」
『帰りたいの。どうしても。』
「.......それが君の目的なのか?」
『目的かどうかはわからない。けど.......亡き父の傍にーーーー彼の亡骸の傍で私は最期を迎えたいの。ただ、それだけよ。』
「........そうか。」
ナルはスッとサヤの頬に触れると上を向かせ、目と目を合わせる。赤と黒が交差した際に、初めて彼はサヤの前で無表情を崩した。
「僕は、オリヴァー・デイヴィス。超心理学の権威と呼ばれている身だ。君の身体を僕に預けてくれるなら、僕は君の目的のために助力を惜しまない。」
サヤはナルのその表情を見て、目を見開く。
「−−−−−−どうした?」
すぐに元の無愛想に戻ってしまった彼を見て、サヤは溜息をつく。
『.........貴方、さっきの方が良いわよ。』
「........さっき、とは?」
『なんでもない。』
サヤはそう呟くと、ナルに右手を差し出す。貴方の提案にのるわ、そう囁いて。
ナルはサヤの言葉を聞くや、彼女の右手を引いてバランスを崩させて抱き寄せ、彼女が抵抗する間も無く口づけを施す。
『.............っ!』
ナルはそれから徐に唇を離し、サヤの耳元で囁いた。
「−−−−−これで、君と僕は契約で結ばれた。これからも、宜しく。」
サヤは口元をヒクつかせた。
『.........もしかして、根に持ってるの?初対面のやつ。』
ナルは口元だけを上げると、冷ややかな視線をサヤに向けた。
「−−−−僕も気をつけるが、できれば症状が出る前に君から教えて欲しい。勿論、僕への呪文は無しで、だ。」
『..............。無茶よ。最近、その症状が出る時間がまばらだもの。』
ナルはサヤの言葉を聞くと眉間を寄せる。
「..........気づいていなかったのか?」
『え?』
「意外と君のその頭は空っぽらしい。君の症状が早まるのは、力を使い過ぎた結果だと考えるのが妥当だと思うが?今回も恐らくそうだろう。」
サヤはナルの言葉を聞くと黙って部屋を見渡す。家具などが壊れて悲惨な状態を認めると、静かにレパロと唱えて部屋を元に戻した。
ところでアレは?そうナルに問われ彼の視線の先を辿れば、そこにあったのはヒトガタ。すぐに合点のいったサヤは、気まずさを感じながらも静かに口を開いた。
『..........拾ったのよ。』
「.........拾った?どこで。」
『............。』
「.......サヤ」
ナルの鋭い視線に、彼女は降参とばかりに両手をあげた。
『..........例の......事故が引き起こされる机に貼り付いていたわ。』
「.....君はこれが何か知っているのか?」
『いいえ。けど、経験上、良くない物のような気がしたからそれ相応の対処はさせてもらったわ。』
ナルはベッドから降りると、そのヒトガタを手にとって観察し始める。
「その勘は−−−−−−当たりだな。」
『え?』
「漸く分かった。−−−−あの学校には呪詛が仕掛けられている。リンに確認する必要があるが、これは恐らく魘魅だ。」
ナルはそう呟くと、ヒトガタを握りしめた。
(エンミ?−−−−−−それにどうしてそこでリンがでてくるのよ。)
(この手は彼の専門だからな。先程の札もリンが以前作ったものだ。)
(.....................。)
(今更かもしれないが、あまりリンを怒らせない方が身の為、とでも忠告しておこう。本気を出したあいつは意外と怖いぞ。)
(..........本当に今更ね!!もう初対面でケナガイタチにしちゃったじゃない!)
2017/11/25