こんなん、いつぶりだ? ってくらい、全力で走りましたけども、アパートの階段を駆け上がる手前で足止めされた。コンビニの赤文字系リーマンではなく、アパートにはまた別のシングルスーツがいたのだ。

 もうね、見た瞬間、ポケットの携帯握りしめたね。いつでも警察呼べるように。
オペラ座の怪人でお馴染みの、鼻までのマスクをその男は身に着けていた。しかも、ファントムと違って真っ白じゃなくて、赤の模様みたいなのが入ってて、そんじょそこらのピエロより怖い。不気味さを加速させているのは、晒している口元がうっすら笑っているところ。

 ここの賃貸に住む人間でない、否、私のような平凡な日常を過ごす一般的な人間と異なるところで生きている人だと、五感が鋭くなっていると見ただけで察してしまう。その上、よっぽどこっちの方が危ないにおいがする。顔は鼻から上見えないし、やたらにこにこしてるし、黒スーツだし。金田一少年の案件かよ。



 もう、なんか、いいや。
疲れちゃったし。珍しく走ったから靴擦れしてるし。拉致でもなんでもすればいい。

 そう、ヤケクソになって、目の前で私を真正面から見据えている男に向かって言葉を発しようと思ったら。(ちなみに「すみません通ります」と言おうとしてた。庶民)


「リン様、であらせられますか」
「は? はあ……」


 おいおーい。あらせられる、なんて尊敬語、今まで使われたことないですよ。
 なぜこの人が私の名前を知っているのかとか、コンビニで私を張っていたグレースーツも何か関係あるのかとか、いろいろ疑問点はあるのだが、こちらが口を開くより先に、黒スーツに先手を打たれてしまった。


「初めまして。わたくし、こんのすけと申します。驚かせてしまい申し訳ございません」
「こっ、コンノスケさん……」


 ずいぶん古風な名前であるな。近くで見てみたら、ふわっとした色素の薄い髪でハーフかと思ったし、肌の色も白くてパッと見ブリティッシュ系の王子様みたいな風貌してんのに。コンノスケ。
まあそこは置いといても、見ず知らずの青年(?)に、ここまでうやうやしく扱われる由来が皆目見当つかない。
ぽかんと口を半開きにしていると、グレースーツの男が走ってきた。よくここがわかったねあなた。







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