「昨日お届けしました手紙は、ご覧になっていただけましたか」 私より背が高いのに、小動物よろしく小首をかしげて確認してくるコンノスケ。 てがみ……ああ、手紙ね。ハーフっぽい外見だからなんかの単語かと思っちゃった。 ……ちょっと待って、手紙って。あの。 「手紙は、拝見いたしました。申し訳ありませんが、内容は覚えのないお話でした。もし何かしらの事情で私が魔法つか……先駆第十一期特殊能力保持者だったとしましても、なんの教育も受けていない自分にはたいそう身に過ぎるお話かと思います。ご足労おかけしてしまい恐縮ですが、どうぞ、お引き取りください」 我ながらよくそんなすらすら言葉がでたもんだ、と思った。魔法使いの正式名称なんてよく覚えてたねって。それ以上に、ここまで冷えた声音が出るんだと。冷凍庫にいれてあるズブロッカと同じくらい、普段の自分のそれからかけ離れ、氷点下を超えている。 嫌なんだ、考えたくもないんだ。その単語も、一瞬だって聞きたくないんだ。 おねがいだから、まだ私が強気でいられるこの間に、そっと帰ってくれないか。 「……そう、おっしゃられるのも無理もありませんね。夜分遅くにおたずねしてしまったご無礼をお許しください」 ちょっと、ストレートに言い過ぎたかな、と思うほど、目に見えてシュンとして肩を落としたコンノスケ。後ろに佇んでいるであろうコンビニの君は、振り返ることができないのでどんな状況かわからない。ただ……静かに怒っているような感じがした。なんとなくだけど。 それでは、今夜は大変失礼いたしました。 去り際まで丁寧なコンノスケは、スーツのポケットから何か取り出すと、私の手を取り握らせた。マッチ箱より一回り小さいサイズの、和紙で包まれた何かだった。部屋に帰ったら即捨てようと思った。何が入ってるかわからないのは怖い。 コンノスケはそれを察してか、中身は落雁ですよと言った。そしてくるりと回り込んで、私の背後に黙って突っ立っていたであろう男に帰りましょうかと言って、墨汁をぶちまけたような夜道を歩き進んでいく。えっちょっとこの眼鏡は置き去りなのかい、と、男の顔をようやくきちんと見上げたら。 「来るのも、来ないのも、どちらでも構いませんよ。俺は。今のあなたにはもう、こちらの生き方があるのでしょうし」 こちらもクソも、私はこの世界が私の営む世界なのだが。 返したくても声が出ない。先ほどの推測は見事当たっていた。この男、私に対して並々ならぬ怒りを抱えている。私の顔を一切見ないくせに、そんなに、コンノスケを突っぱねたのが気に障ったのか、魔法使いを拒絶したことか、それとも? 「あなたが来られても、今の本丸が先代のいらした頃と同じになるなんて到底思えない。 俺の……我々の主は彼女だけなのだから」 「ちょっと、」 「失礼。あなたには身に過ぎるお話だったかもしれませんね。今日の事はお忘れください」 それでは。と言って、男はコンノスケの後に消えた。 去り際、私の顔を一度だけじっと見た、あの男の目が何を意味しているか知っている。 憎悪だ。 ← | → |