10:飼犬の反逆

「そ、そんなくっつくなよ」

「マスクくんの照れ屋」

プイッとそっぽを向くゴールドマスク。

カオとマスクはすっかり前と逆転したようになって、よくカオはマスクにくっついて周るようになった。
マスクはカオが近づくと胸がキュンと落ち着かず、前のように簡単に好きだとか結婚だとかを言えなくなっていた。

温かいお茶をすする。カオはマスクの肩を借りながら、テレビ画面を見ていた。試合中継だ。試合は新しいシルバーキャッスルの様子。

「あ、極くん」

その名前から思い出される、以前言われた言葉。マスクは思考回路が乱れる。
乱れを振り払うと、だんだんと甘い気持ちになってゆく。
俺のことを考えてくれる奴、そう考えながらじっとカオを見つめていた。その視線に気がついたカオがマスクの方に顔を向ける。

にこっと笑うカオに、ズキューン!と心撃たれてしまったマスクは思考回路がまた乱れてしまう。

この笑顔に俺は惚れたのだ。

マスクが初めてカオに出会った時のこと。
マスクは街ではぐれリーガーに奇襲に会い、燃料を抜きとられてしまった。
ああもうここでバラバラにされてパーツでも売られてしまうのかと覚悟を決めたのが最後の意識。

次に目覚めた時は、女の顔が目に入った。こいつが俺を売り飛ばすのか、と。

「あなたゴールド三兄弟の人でしょう」

「なんだ、それなら高く売れんのか?」

「部品売買の知識は無いの。喋れるならもう大丈夫ですよね」

アイアンリーガーのオイルなんて買うの初めて、とカオは控えめに笑った。
マスクはゆっくり体を起こすと、カオと周りを改めて見る。オイル缶がいくつか転がっていた。

「オイル代は」

「私ゴールド三兄弟のファンだからいいの」

「ンなわけにはいかねえだろ」

「いいの、また…試合頑張って!」

笑顔をまっすぐに見た時、ゴウッと風が吹き付けた様な、光のかたまりが身体を突き抜けた様な、そんな感じがマスクを襲った。
効果音をつけるなら、ズキューン!という感じだろうか。

「俺、俺…お前のこと好きだ!」

「えっ」

「俺と結婚してくれ!」

その後振られるのだが。その理由が、自分は三兄弟でもゴールドアームのファンだからという理由だった。



冷静に戻ってゆく中、マスクはそんなことを思い出した。
カオには何度も告白して、その度に断られていたっけ。マスクはよくもまああんなに積極的にできたものだと過去の自分を感心する。

「マスクくん、またポヤーってしてる」

「俺、今さら恋煩いかもしれねえ」

「どうしてそう思うの?」

「何だろうな、昔と今じゃカオを考えてるとき、違うっていうか。好きなのに変わりはねえけど」

「たしかに前のマスクくんは当たって砕けろって感じだった」

砕けさせていたのはカオだが。

「前のマスクくんも、今のマスクくんも、私は大好き」

「カオ…」

「マスクくん大好き」

「二回言うなよ」

「好き」

「も、もういいって!俺だって好きだ!」

「!…大好き!」

マスクは顔から火が出そうだった。
そのあと5回ほど、好きだと言われた。


そんな中でぼやかれていたとはつゆ知らず。

「なあ兄貴、二人とも俺たちが居るの忘れてるよな」

「違いねえ、でも俺はいつだってカオが妹になる準備はできてる」

弟も弟なら、兄も兄だとゴールドフットはオイルを飲んだ。