またね、
動けん、あー情け無い。
サイバトロンにやられて、いろんな部品が吹っ飛んだ。掻き集める力も無い、至る所が痛くて言うことを聞かない。
木々の間、草をかき分ける音がした。
動物か?頼むから、牙をむかないでくれ。今は部が悪い。
「でか!」
草陰から出てきた見慣れない生き物はそう言った。言葉を知っているらしい。
「また機械の生き物。しかもかなりでかいやつ」
「なんなら、おどれは」
「人間。あなた、大丈夫ですか?なんだかどう見ても怪我してますよね」
それがどうしたとランページは面倒くさそうにため息をつく。いつものように殺してやりたいところだが、腕はブランブランで、まだ回復には時間がかかった。手首はすぐそこに落ちている。
「拾えや、そこの、わしの手」
引き金引いて銃殺しても良い、この人間の大きさなら充分叩き潰してでも殺せるだろうと思った。
考え無しに人間は手首を運んできている。ああ馬鹿なのだなとランページはその様子を見ていた。しかも手首を運びながら人間は「他には何をすれば良いですか」などと言う。
「人間、何考えとる」
「手首だけでも重たいなって」
「あほう。わしに殺されても知らんぞと言うとるんじゃい」
はあそうですかという顔をして人間は危機感が無い。少し間ができる。人間が何か考えているのか、この場が怖くなったのかはわからない。
「殺せるってことは動けてるわけですよね。それなら、良いじゃないですか」
「ホンモノのあほうじゃ」
「それより痛くは無いですか」
ランページはその言葉を初めて聞いた。
痛くは無いかなんて、ランページに誰が言ってくれただろうか。そんな者はいなかった。
「痛い」
「痛いの痛いの、とんでけー」
「そんなんで飛んで行くなら病院要らんわい」
腕が動く。完全にではないが、神経が戻ってきたらしい。あー本当に自分には効いてしまうらしい。病院要らんじゃないか。
「もうすぐデストロンがわしを回収に来る。そうしたら人間、おどれは助からん。早う逃げい」
「あなたは見逃してくれるんですか」
「貸しにしといちゃる」
早くという意味がわからんのかとランページはまた人間に呆れた。
便利な体の自分を回収に来る、きっとメガトロンはスパークだけでも回収に来るだろう。
「実は優しい、とか」
「な、や…優しゅう無いわ!」
「心が優しい人は手が冷たいんですよ、カニちゃん」
「それは生まれてもともとじゃい!」
「優しいカニちゃん、またね」
まだ感覚の戻っていない手をグッグッと握ると、人間は行ってしまった。
またね、つまりまた会おうとしているということか。さようならと言えばよかったのに。