08:HAPPY OR SAD

「うるさいッスね…」

タランスはウンザリした様子で手を動かす。タランスのうるさいというのは、大声や騒音ではなく、雰囲気が、ということらしい。

クイックストライクはカオにつきっきり。これは今に始まった事ではないが、なぜかおもしろくない。少しからかってやろうか、たまにはあの色ボケのサソリをとっちめてやらないと…。

「ちょいと人間、こっち手伝うッス」

そうやって、クイックストライクから幾度もカオを離した。クイックストライクは、えーだのブーだの文句を言ったが、引き止めることは無かった。

早1週間が経とうとしていたこの遊び。頭が良いわけでもないクイックストライクだが、さすがにおかしいと思いはじめた。今日はカオを呼んでも、掴んで離そうとしない。

「なんでカオ呼ぶギッチョン」

「なーんであーたにそんなこと言わなきゃいけないんスか」

やはり離そうとしないクイックストライクに、苛立ち始めるタランス。
腕を組み、クイックストライクを睨みつける。そこから目線をカオに向ければ、どうしていいやら困った、という顔をしていた。なんだその顔は。ご丁寧に肩を掴んでいるクイックストライクの手…手っぽいやつ!に少し手を重ねている。

「唾でもつけとかないからこういうことになるんスよ」

「う、うるさいギッチョンチョン!」

「ヤキモチだなんてつまんないもん妬いてないでさっさと…」

言いかけて、ハッとする。口を噛み締めて、タランスはもういいと去った。
気がついたからだ、嫉妬していたのは自分だと。情け無い話だと、タランスはひとつため息をつく。
今晩は酔いたい気分だと、カフェインをがぶ飲みするのだった。



「唾つけとくの?」

「えっ」

タランスが去った後、カオはクイックストライクを見上げてそう聞いた。

「クイックストライク、唾なんかでそうにない口してるけれど」

「試してみるギッチョン?」

ここぞとばかりにクイックストライクはカオに顔を近づける。
そうだ自分のものにしてしまえば、もうあんな悪い虫がつくことはないのだから。

意を決してクイックストライクはカオに口づけようとするが、残り数センチのところでワシワシとカオがクイックストライクの口を触ってきた。

「ほら、唾液なんて出ない」

「あ、あー!そうだねえ!俺の勘違いみたい!残念だー」

鈍いカオにガッカリするが、とても緊張していた糸が切れてクイックストライクはほっとしたような気もしていた。

「本当に唾つけることはないからね。クイックストライクが手伝って欲しい時は、私なんでもするから」

「ありがとう、ギッチョン」

鈍い、とクイックストライクは内心ぼやいた。