プロレス
ポヨ。
何も言わなかった。カオも平然としていたし、気がつかなかった!何もなかった!というフリをした方が良いような気がして。
だがたしかにおれの肘はカオの胸に当たった。
ポヨンというかフニッというか、柔らかなその一瞬の感覚は消えることは無く、消したくもなかった。あんなに柔らかなものが足つけて歩いてんのかと一人、ワナワナと振るえた。神さま、奇跡をありがとう。
「…ということがあったんだ」
「きぃー…もちわる!」
ペンギン、お前はわかってくれると思って話したというのに。気持ち悪いって。そりゃないぜ。
「おれもう肘洗わねえと思っちまったもん」
「その辺が気持ち悪い。でも、たしかにアレは柔らかいよな…人体の神秘だと思うぜ。キャプテンの能力でどうにかならねえかな」
オメーもたいがい気持ち悪いじゃねえか、とシャチは笑った。直接触ったら倍柔らけえとか話すおれたちは夢を見ている。だって男の子だもん。
ペンギンと馬鹿話をした後、シャチはロープを取りに貨物室へと向かった。またこれが荷物の整理がまだ済んでおらず、汚らしいこと。ロープ一本探すのも苦労しそうだなと汚い部屋を想像しながら、部屋へ入るとカオが居た。
想像していた汚部屋は無く、荷物の整理をカオがしてくれた後らしい。
「片付けてたのか?言えば手伝ったのに」
シャチを見たカオは驚いた顔をしていた。もうまさに、どうしてあなたがここに!というような、ドラマの犯人のような。
「ありがとう、でもここ狭いし。あっ、えと、ベポには少し頼んだんだけど。シャチ、は、ええとね」
ベポには頼めておれには頼めなかったのかと少しグサリと刺さるものがあった。たまたま近くに居ただけかもしれないが、それでも頼りにはされたいものだ。
「ベポのが場所とるじゃねえか。どうしたんだよ」
「その…こんな男の人が多いところで、あの…気にしちゃ駄目かなと思ったんだけど。あのね、」
「おう」
「前…当たっちゃって、ごめんね」
あまり頭は良くないかもしれないと思っていたシャチの脳はコンマ単位でなんの話かを理解した。
カオは気がついていないか、気にしていないと思っていた。そんなことは無かったのだ、女の方が触れられるということには敏感であった。
「あ、謝ることかよ!」
大感謝だよ!神にお礼言っちゃったよ!シャチはさっきまでの自分を思い出す。
もしかすると、カオはすごく気にしていたのではないかと思うと、過去の自分を殴ってやりたい。
この狭いところならまた当たりかねないし、もしかすると胸だけじゃなくて他のところもプニプニ当たるかもしれない。そんなことを気にしてしまったカオは、当たっても気にしないし気にならないベポを選んだらしい。
「謝るの、おれの方だ。いやでもわざとじゃねえからな!」
「わかってる!シャチ優しいから」
優しいからそんなことしないよね?と聞かれたが、それはどうだろう。とりあえず頷いておいたが、それはどうだろう。
それから少しだけカオと物理的距離が近くなった気がする。心はまだ、距離があるのだが、今はこれで良しだ。