照らしてくれるな

いまこの辺りは陽が差さない。何が起きても不思議ではない海だ。こんなこともあるだろう。
薄気味悪い暗さよりも、キッドは暗いことの不便さに腹を立てていた。キラーはカオを探して、何が起きても守ってやれるようにと思い直していた。

カオは、キラーが拾ってきた元奴隷である。病により捨てられたが、ひょんなことからあの例の外科医により治されて今は健康体だ。少しずつだが、心も上を向いて歩き出している。

つまりは戦闘能力は無いのだ。降りてもいいんだぜとキャプテンキッドは言った、死ぬ覚悟も生きる覚悟もないのに乗せたままではゴミより邪魔でお荷物だと。
しかしカオはここでなんでも仕事をする、死ぬなら恩を返して死なないと呪ってしまうと言った。

「カオ、カオどこだ」

キラーは呼んだ。手探りでまわりを探りながら。

「キラーさんの声がする!」

すると、声が戻ってきた。カオだ。
キラーはまた名前を呼ぶ。すると、キュッと手が握られた。

「ここです。これは、キラーさんの手?」

「あ、ああ」

突然手を握られて、こんな状況ながらドキリとしてしまったキラーは少し動揺した。握られた手は、自分と比べてそれはとても小さかった。

「何が起きるかわからない。なるべく側にいるといい」

「はい、ならここに」

カオはすぐに言うことを聞いた。奴隷だったからだろうか、反抗などはしない。素直になんでもはいと返事をした。
それを思って、これはどうだろうということをキラーは思いついた。

「こわくなったら、抱きついてもいいんだぞ」

それに対してすぐには返事がなかった。
キラーはカオが今どんな顔をしているか、よくは見えなかった。こんな時に冗談を言うなと怒られるだろうか。いや、カオは怒るということを知らない。

「…こうでしょうか」

それは不意打ちだった。キラーに不器用なハグが来た。

「な…こわい時と言ったろう!」

バクバクと心臓ははやく動いた。キラーはこんなことは思ってもみないことで、情けないやら大きな声を出してしまった。

「こ、こわい時と思ってはいけませんか?」

「いや、悪くない。すまん。カオが本当に、その、抱きつくとは思っていなかった」

「恥ずかしいことを言います。暗い中で、キラーさんの声がした時安心しました。だから、本当は、その…すぐにこうしたかったです」

どうしたどうした。と思うくらいに今日のカオは自分の気持ちを喋った。
きっと暗いから。暗い中で、顔が見えないから。周りにも、自分は見えないし、周りも自分を見ることはできない。

「カオ、なあ」

「はい」

ガサ、と音がしたと思うと、カオの唇に何か当たった。

「何か見えたか?」

「いえ何も。何か当たりました」

キラーは素顔を見せない。マスクで顔を隠すおかげでずっとできなかったことをした。

「キラーさん?どうしたんです、黙ってしまって」

「いや、問題無い」

これが思いの外恥ずかしかったキラーは赤面した。熱が集まり、自分はずるい奴だと。こんな赤くなってしまった顔を見られない暗闇と、マスクに感謝をした。


突然の灯りに照らされ、目を反射的に薄めた。そこにいたのはキッドである。

「おーおー、こんな時にイチャつくのかテメーらは」

「キッド!これは、別に!」

キラーとカオを探していたキッドは、まさかこんな時に二人が抱き合っているとは思っておらず。
これはすぐに船内で噂が広まり、しばらくキラーはキッドに冷やかされた。