スピカ
たまに。ちょっと、少し、わずかに、カオは手を触れてくる。掴むか、掴んでいないかくらい控えめに、弱い力で。
まだ自分がしてもいいことなのか判断に自信がないらしい。
「カオ」
「私、キラーさんの手が好きです。触っているとドキドキする、嫌な痛みじゃない」
それでも、前より自分のことを話すようになった。その方がずっと良い。
「俺も好きだ」
「キラーさんも手が好きなんですか」
「いいや、カオの端から端まで。ぜんぶ」
信じられないという表情から、赤くなって、黙る。カオは手をしっかりと握りしめると、自分も同じだと話した。
「船でイチャついてんじゃねえ」
「キッド」
朗らかな雰囲気の中、ガスガスと割り込んで来るのもキッドの御決まりパターンであった。目につく、鼻につく、見えるところでイチャつくなと。半分冗談、半分は本気だろう。
「キッド、男の嫉妬は見苦しいぞ」
「馬鹿言うんじゃねえ。船の先でおてて繋いで語らってんじゃねーよ」
「キャプテンもキラーさんと話したい?」
「違いない」
キラーの吹き出した笑いは、潮風に消えて。
夜は深く。早く目がさめるには早すぎる時間。カオは覚醒してしまった。脳はもう眠ってくれない。星でも見ようかと、甲板に出れば、キャプテンであるキッドが居た。
「キャプテン、風邪をひきます」
「ひかねーよ。なんだ、目ぇ覚めたのか」
カオが頷くと、キッドは自身のコートをカオに羽織らせた。
「お前が風邪ひいたほうが厄介なんだ。キラーに何言われるか、考えたくもねえ」
「キャプテン、寒そう」
「テメーそこはありがとうございますとか、有り難き幸せとか言うもんだ。俺は風邪ひかねーってんだよ」
キッドはフン、と鼻を鳴らした。
大きなコートは温かく、また、キッドのにおいがした。自分とは、なにもかも違うにおいが。
「キャプテンはキラーさん大好きですね。私も大好きなんです」
「その好きは同じじゃねえ」
「それは、歴史や、思い出の量の違いですか」
「教えねえ」
カオにはまだわからなかった。
いや、なんとなく違うことはわかっていたが、それを説明することはできない。
カオはキッドのことも好きだ、ほかの船員も、みんな好きだ。
夜通し、キッドは星について話した。
カオは空を見上げることをここで覚えた。なにもかも新しい、不思議な話。のめり込むように耳を傾けていた。
翌朝、話し疲れて眠ったキッドと、キッドのコートを羽織って寝ているカオが発見された。
それはキラーにとってあまりにもショック、あまりにも衝撃的光景であった。
風邪をひいてもらったほうがよかった、と思うくらいにキッドはキラーに問いた坐されることになる。