海の人
海が近い。
船の上だから、ではなくて、きっとそんな気がするだけ。グングンと迫ってくる波が、まるごと飲み込んでしまうような。
「今日は星が近いな」
海を除きこんでいると、そう声をかけられて振り向く。キャプテン、と反応をすればドシドシとまた乱暴な足音をさせて隣にやって来る。自然と、カオは上を向いていた。
「何してた」
「波を追いかけてました」
「またか。今に落っこちるぞ。あんまり下ばっか見んじゃねえ」
カオはよく海を眺めていた。
鱗が光っていた、大きな魚影が見えた、色が変わっていたなどと理由をつけて。海が好きで、とてもこわかった。
「キャプテンは海に嫌われているじゃないですか。海、嫌いですか」
「好かれてるかもしれねえぞ。海が能力者を離さねえんだ。おれはな、海好きだぞ」
潮がどうしたって香る。さやさやと風が頬を抜けてゆく。キッドは頬をついてカオを眺めた。
「カオは好きか」
「キャプテンの方が好きです」
「海と比べんな」
しかし、カオにはどちらも存在が大きかった。同じくらいの大きさと、広さ。見れば穏やかになれるし、荒々しさも似ていた。
「目、開けんなよ」
「ふふ」
引き寄せる波のように口づけされると、塩辛くない、なんだか不思議に好きな味がした。
海はこれから朝日を迎える準備に入る。
キッドはあたたかな手を引き、船室へ向かった。