優れ石の上
「な…」
「あ」
「な…」
「あー」
「な…!」
キラーは今ヒートと目が合い、そしてワナワナとふるえている。
ヒートは気まずそうに、冷や汗をかいて、どう言い訳をしようかと固まっていた。
「キラーさん、武器の手入れ終わったんですね!」
ヒートの背後からパアッと笑うカオが話した。キラーも固まって動かない。それもそうだ、カオはヒートの髪を手入れしている。そんな様子を見て、キラーはこの二人はそんなに仲が良かったのかと、そして、なんと羨ましいことをされているのだとショックを受けていた。
キッドは髪が短いが、この船に髪が長いものは多い。自分も長い。が、こんなイチャつき方があったとは…!とキラーが心渦巻く中、キラーの心中をヒートは察して「ああまずい何と言い訳をしよう」と考えていた。
ヒートはキラーがカオのことを好きなのは知っていたが、カオが自分の手伝いをしようと思ってくれたのは悪気が無い。断れなかった。そしてキラーは知らないかもしれないが、船員たちの中ではカオは癒しであり、かわいらしい娘のような存在であった。そんなに歳ではない船員たちだが、カオを娘や孫ができたかのように見ていた。
そんなことを言って、言い訳になるとは思えないのだが。
キラーの殺意に満ちたオーラはバカでもわかった。ヒートはキラーに殺されると固唾を飲む。
すると、ヒートの毛繕いのために木箱に上がっていたカオはそこから降りて、にこにことキラーに近づいた。
「キラーさん、キラーさんの髪もやって良いですか?マスク、取らなくても大丈夫ですから」
「えっ」
ヒートはキラーの真っ黒な殺意満ち満ちの雰囲気から、カオの一声により急に花が咲いたように明るくなる様を見た。こんなにわかりやすいキラーの旦那は初めてだと思いながら、ほっと胸をなでおろした。
「い、いいのか。そんなことを」
「ずっとやりたいなと考えていたんです。えへへ、さあそこに座ってください。手が届きませんから」
案内をされるキラーを横目に、ヒートはコソコソと逃げようとぬき足差し足していた。しかしそれは直ぐにバレて、キラーには「後で話があるから首を洗って待っておけ」と睨まれた。
ガンを飛ばしたキラーは、床に胡座をかいた。カオは木箱に上がって、キラーの髪を持ち上げた。櫛がかけられてゆく、引っかかったり、するりと抜けたり。
すくわれた髪に、胸が高鳴る。ドキドキと心躍らせる自分が少しおかしく思う。
「キラーさんの髪、綺麗ですね」
「そんなことを言われたことはない。あ、ああ、その、カオの方が、綺麗だぞ」
「え、そんな、ありがとうございます」
何を言っているんだと、キラーは自分で言ったことに照れた。
櫛をいれながら、カオもはにかんだ。
「キラーさん、髪を切ったりはしないんですか」
「短い方が、カオは好きか?」
「いえ、切るなら私が切りたいと思ってしまっただけで。すみません、せっかくならと。生意気なことを…思って…」
おずおずと背中で話すカオに、キラーは即答した。
「切ってくれ」
と。
「でも、良いんですか。綺麗な髪なのに」
「髪はまた伸びる。カオ、切ってくれ」
「なら、今日は少しだけ」
キラーは静かに大人しくしているが、バンザイガッツポーズをしたくなるような喜びに満ちあふれていた。
シャキ、シャキ、と髪を切る音が心地良かった。
見たかヒート、おれは髪も切ってもらったぞとキラーは誇らしげに思った。
散髪をしながら、カオはふと疑問に思って、キラーに話した。
「キラーさんは、髪が長い人が好きですか」
「考えたことはない。しかし初めて好きになった子は長かったな」
「キラーさんの初恋…」
手が止まるカオに、キラーはどうしたと振り向く。すると、カオは自分の髪の先をくるくるといじっていた。
「…私も、伸ばそうかな」
そんなことをポソリ言いながら。慌ててキラーは前を向き直す。熱くなったのだ、顔が。
なんだなんだ、まったく、嬉しいことを言ってくれる。カオの髪は短く、淡い色をしていた。
「カオは、カオだ。カオならなんでも、おれは好きだ。長い髪のカオも見てみたいが、今の姿も惜しい」
カーッと茹で上がるように、照れながらツラツラとキラーは話す。カオは嬉しかった。シャキシャキとハサミのスピードが上がる。
「伸ばしてみます、私、あの、そしたら見てくださいね。似合わなくても、笑わないでください。ええと、それと…あっ」
ぱさり。
*****
「キラーの短い髪、久しぶりに見たな」
キッドはまじまじとキラーを見た。
「すみません、私が失敗しました…」
嬉しくて照れて、ハサミが止まらなくなったカオは誤ってバッサリとキラーの髪を切り落としてしまったのだ。
「言ったろう、また髪は伸びると。それにおれは気にいっている」
「キラーさん…」
膝をついてカオに目線を合わせると、キラーはそう論じた。安心したカオは、へにゃ、と笑う。
手を握ると、カオは目を泳がせた。また照れているのだろうかと、キラーは顔を覗き込み続けた。
「…あんまり見ないでください。短い髪のキラーさん、新鮮で。ちょっと、かっこいい」
「な…」
「失敗しておいて、すみません…でも、いいなって思ってしまった私を許してください…」
トクリ。キラーはまた、カオに恋した。
後日、散髪の練習代にされているヒートの姿を発見したキラーがいた。そして振り出しに戻る。