まばゆい太もも
この船の船員は変わった格好の人が多かった。パンク、というのだろうか。
カオはファッションや流行り物については疎く、苦手で、あまり縁がないものと思っていた。彼らの洗濯物は、なかなかに干すのが難しい。型崩れや、たくさんの紐のようなものが頭を悩ませた。
その中の一枚、あおいあおいTシャツ。
カオは青が好きだった。パン!とシワを伸ばして、なんて大きな服だろうと眺めた。
「キラーさんの服から、洗剤のにおいがする」
いい匂いのそれは、シャボンのような匂いがした。普段の彼からの匂いとは違うものの、好きな匂いだった。
シーツ類のシワを伸ばしていると、シーツの陰からヌラッと現れた者がいた。
ワイヤーというらしい彼は、あまり口数が多い方ではなかった。
「メシは」
「すみませんまだなんです。これが終わったら準備をしようかと」
「そうか」
答えながら、自然とワイヤーは洗濯物を干し始めた。自分がやると断ったが、2人の方がはやく終わると言い、ワイヤーは洗濯干しを続ける。その姿は少しおかしく見えた。大きな男が、タオルを干している。
カオはまじまじとワイヤーを見た。
あまりじっくりと見たことは無かったが、なかなかに寒そうな格好をしているな、と思った。網が多いその格好は、カオにはやはり縁がないように思えた。
「ワイヤーさんもおしゃれにしてますよね」
「カオは代わり映えがないな」
「服はあまり持っていませんから。この船の方はみんな、華があるというか、特徴的で、個性があります」
「仕立ててやろうか」
えっ、と目を丸くしていると、ワイヤーは薄く笑った。そんなことを頼んで良いのだろうかと返事に困っていると、またワイヤーは笑った。
「良い服装はキャプテンにも喜ばれる。船員がボロ来てちゃ、格好がつかないからな」
たしかにそうだと納得をしていれば、ワイヤーはどこかへと消えていった。ごはんは良かったのだろうかと思いながらも、声をかけられなかった。もしかすると、裁縫などが好きなのかもしれない。
その後、昼食の片付けが終わった頃に、ワイヤーはカオを手招きして部屋へと招き入れた。昼食も取らずにずっと作っていたらしい。カオはドキドキとしながらできた衣服を見た。
「短い」
それはとても短い丈のスカートになっていた。生地は黒く、船員たちの雰囲気にどことなく似ている。なんと呼ぶのかわからないシルエットに、ところどころにヒモが飾られていた。
「これくらいがちょうどいいんだ。似合うぞ、きっと」
「なんとなく、キャプテンみたいに強そうな服ですね、私が着こなせるといいんですが」
部屋に戻ると、嬉し恥ずかしくいそいそと試着をする。やはり短いし、強そうで、これがパンクというものなのだろうか。
自分ではどうにも変な感じで、似合ってはいないような気がしていけない。小さな鏡しかないこの部屋ではどうにもわからないのだ。
「カオ、部屋にこもったきりじゃないか。今日は天気がいいからまとめて寝具を綺麗にするんだろう」
小さな鏡とにらめっこをしていると、ドアの向こうからキラーの声が聞こえてきた。
キラーなら笑わずに服を見てくれるかもしれない、とカオはほんの少しドアを開けて、隙間からキラーに声をかけた。
「キラーさん、私、服をもらって。それで、どうでしょうか。見てもらえますか」
「服を?キッドにでももらったのか?」
キラーはキッドから服が届いたと思ったらしい。少しだけ開けられていたドアは、キラーによって大きく開く。
キラーは固まった。
「ワイヤーさんが、これくらいがちょうどいいって。どう見えますか、私」
ハッと我に帰ったキラーは声を荒げた。
「見えすぎだ!な、こんな、他の奴らに見せたのか?誰にもらったと言った!ワイヤーだと!少し待て、絶対に部屋から出るんじゃないぞ!誰も部屋に入れるな!」
あれよあれよという間に、キラーは飛び出て、すぐにズボンを掴んで戻ってきた。
「これを履け!俺のでデカイだろうが、許せ!」
「そんな、そんなに似合ってなかったですか」
「似合うぞ!だが人に見せていいかは別だ!他の男に見せてくれるな!」
ひとりほくそ笑んでいるワイヤーは、後にキラーにこっぴどく叱られることになる。
「好きでしょう、ああいうの」とニヤニヤ話されたキラーは、しばらくカオにワイヤーには近寄らないようにと警告をした。ああしてやられたとキラーが珍しく慌てていた様子を、キッドも楽しんで見ていたらしい。