眼中のバラ
「うちで雇ってる給仕だよ。何か悪いのか?」
キッドは言った。
こんな男臭く、荒々しい海に出ている船に、なぜそんな女が乗っているのかと怪しまれればそう答えるようになっていた。
なぜ給仕を、と続けて問わせることができないのは、キッドの強い威圧だ。
「給仕だって言われました」
はにかみながらカオは話す。
カオは元々奴隷の身であったし、役割りはともあれ、人間として扱われることが嬉しかったのだ。あいつはただの奴隷だと言い放つこともできたろう。それをしなかったのは、キッドの気配りだ。
キラーは嬉しそうにしているカオに、自分も喜んだ。
「キッドらしいな」
「キャプテンは私に居場所をくれました。居ても良いって言ってくれた、そんな気がします」
そんな平和な、穏やかな日。
給仕、という言葉に反応する者は他にも居たらしい。
事件はその2日後起きた。キラーの目に映るモノがその事件の原因だ。
「な、な…カオ、それは一体」
キラーはゴクリと固唾を飲みながら、カオに問うた。
「これですか?」
カオはふわりと半回転、スカートをなびかせた。
「メイド服というらしいですね。ワイヤーさんが、これが給仕の戦闘服だと言われて」
普段と違う格好のカオに、キラーは目を奪われたが、それよりもまたワイヤーにしてやられたと動揺が隠せない。
普段と同じ仏頂面で、静かにコーヒーを飲んでいるワイヤーにズンズンと向かって行き、キラーは一喝する。
「副船長は、てっきりそういうのが好きなのかと」
「カオで遊ぶな。疑うことを知らないんだ、カオは」
「でも、好きでしょうアレ」
「………………好きだ」
ほら副船長も男なんだとワイヤーはコーヒーを飲んだ。
うるさい!と珍しく大きな声を出すキラーに、またワイヤーはほくそ笑んだ。
「キラーさん、メイド服…取り上げちゃうんですか」
「服なんて、別のを着ればいいんだ」
「戦闘服だと」
「カオは戦闘しなくていい」
少し残念そうにするカオ。キラーも同じで残念だが、こんなコスプレをさせて船に居させるのは余計な虫がつきそうだった。
「なんだ、あれもうやめたのか」
「キラーさんがいつもの服で良いと言われて」
キッドが笑いながらそこへやって来た。
どうやらキッドもおもしろい事件として様子を見ていたようだ。
「すっかり保護者だなキラー」
「ふん」
「ハハ!カオ、キラーはな、案外嫉妬深い奴なんだ。何ならキラーの前だけメイド着れば喜ぶぞ」
「キッド!」
いじられることが増えたキラー。
久しぶりにキッドと子どものような取っ組み合いの喧嘩をした。
次はもっと際どい服を用意してみようと笑うワイヤーは、ますますやる気に満ちていた。