尻を持ち込む
「キャ!」
「おお。反応が女らしくなったな」
ワイヤーは普段と同じ、変わらぬ表情でカオの尻を触って反応を見ていた。
歩いているところ、さすり、と突然触られたカオは驚き声を出したが、それがこの男には嬉しかったようである。
「前は触っても黙っていた。どうしたことか、人らしくなった」
ひとり頷き、ワイヤーは何かを納得していた。委細かまわず話をするのは悪い癖だ。納得したかと思えば、またカオの尻を撫でまわす。止めるようにその手をガシリと掴んだのは、カオではなくキラーであった。
「他の確かめ方があったろう」
「さあ。旦那なら、どうするんで」
カオはササッとキラーの背後に周る。やはり頼りにしているのが、こういった行動から感じられた。そんな様子も、ワイヤーには面白い反応のひとつらしい。少しだけいやらしく笑った。
「良い尻でした」
そうキラーに向かって言うと、ワイヤーは今日もまた面白いことが起きるなと上機嫌で離れて行った。今度また灸をすえておかないといけないなとキラーは息をついた。なんだか良いオモチャにでもされているようで、怒ることすら計算の内に感じられてしまうが。
「ワイヤーさんには、良し悪しの区別がつくんでしょうか」
不思議そうにそう尋ねるカオに、思わず吹き出してしまった。またそれを見て、何故かわからないとするカオの頭をワシャワシャと撫でる。
「キラーさんは触りませんよね」
「えっ」
「キャプテンはよく女を買うとか聞きます。キラーさん、欲求とか、どうしているのかと思って」
何ぞ知らん質問にダラダラと汗が吹き出てくるキラー。どうしたものか、何と答えるべきか。
「も…もしかして、キャプテンで何か」
「な!おれは女が好きだ!」
思いの外大きな声が出てしまったキラーは、バツが悪そうに首を掻く。
カオも安逸を貪っていたわけではないのだ。船に居て、考えることも多々あった。
「私は女に入りますか」
左見右見して、カオはキラーの服を掴んだ。朱を注ぐカオに、見とれて、キラーは声が出ない。
「こいつ、パッタリやめたんだぞ。女と遊ぶの」
代わりに声を出したのは、ふらりとやってきたキッドであった。
「何でやめたかは聞いてねえがなあ」
そうしてニヤニヤとするキッドに、キラーは糸が切れたように声を出す。
「キッド、余計なことを」
「人の色恋沙汰に首突っ込むほど野暮じゃねえよ。それともなにか、手助けがいるってのか」
「お前は昔からそうだ、自分から割って入ってくるじゃないか」
「てめーがいつもトロトロしてるからだろ」
ばちばちと火花が飛びはじめて、幼馴染同士の喧嘩というのはスタートする。
そんな様子は、カオには仲睦まじく見えた。喧嘩するほど仲がいいとも聞く。
「やっぱり、キラーさんはキャプテンと居るのが一番楽しそうに見えます」
笑いながらカオは洗濯カゴを拾って、甲板に向かってしまう。
「いや、それは違う!待ってくれカオ!」
「ハハハ!まだ苦労しそうだなキラー!」
女に苦労するのは今も昔も変わらないキラーを、キッドは笑って。幼馴染の虚に乗ずることが、また少し楽しみになってゆく。傍迷惑な者しかここには居ないのかもしれない。