恋せよ乙女
「ねえもっと教えてよ!」
「オトコって、どうやって寝るの?もよおしたらどうするの?ねえねえ!」
とある島。女しかいないこの島には、男は入れない。
『ちょっと見てこいよ』
そんな軽く言って良いのだろうか、キッドはポイッと地図を渡した。あそこは戦士ばかりの島で危険だろうと、もちろんキラーは反対したが、キッドは笑った。
『あの馬鹿ザルが見てきた島を、俺が知らないのはシャクだ。どうだカオ、やってくれるな?ついでに大蛇の毒でも取ってこい』
キャプテンの命令は絶対だ。
それに、カオは嫌ではなかった。やはり任務を任せられることは、信用してもらえているようで嬉しかったのだ。
カオは小船で海を渡り、島へ上陸した。そこには、蛇を連れた不思議な部族が住んでいる世界が広がっていた。
嗅いだことのない料理の匂いや、草木の匂いがする。
船を見ていた部族の1人が、カオを見つける。カオはキッドに言われた通り、街から逃げてきたのだと話した。すると街へ案内され、たくさんの質問をされた。
オトコについて。
何人か男がやってきたのだが、本人たちには聞けないし、まだまだ興味があったのだ。
街はお祭りのように騒ぎになり、オトコがいないオトコ祭りになってしまった。
あまりの祭り騒ぎに、女帝は黙っていなかった。
「なぜわらわに通さぬ」
「蛇姫さま」
カオの前にたたずむ女帝。女帝は、少し言いずらそうに、口を開く。
「そこの者、もしや、ルフィを知っているのではないか」
カオは首を横に振った。
「そうか…」
「もしかすると、その方は恋人ですか?申し訳ありません、その方のことを存じていなくて」
女帝はボア!と赤面をする。
「旦那じゃ。ゆくゆくは結婚…!」
「旦那様」
「そうじゃ。ルフィと…フフ」
「うらやましいです。私はもともと、奴隷の身…そんなことは、きっと」
今までデレデレとしていた女帝の目つきが変わった。どうしたのだろうか。
すると、女帝は今宵話があると耳打ちした。
その夜、厳重に警備された蛇姫の城にカオは呼び込まれた。
「今は奴隷ではない、と」
「ええと、はい。いえ、そうかもしれません。ですが、人間として扱ってもらえて…」
「逃げて来たのではなかったのか」
「あ、と、その…」
「よい。もう、よいのじゃ」
蛇姫は遠くを見ているような、辛いことを思い出したような、どこか苦々しい顔をした。
「蛇姫さまは、奴隷を差別しますか」
「なぜそのようなことを聞く」
「今、蛇姫さまは私を蔑む顔をされていないので」
にこりとした。蛇姫は、やわらかく。
「おぬしはもう奴隷をしておらぬな。奴隷の者は蔑む顔しか知らぬ故、区別などつかぬものじゃ」
「あ、私…」
「帰るところがあるのであろう」
女帝は窓を指差した。夜のうちに去れ、という意味なのであろう。
「帰して良いのですか。スパイや、反逆者や、悪い人かも」
「それは」
「それは…」
「おぬしも恋をしておるからじゃ」
*****
「よく生きて帰って来たな」
キッドはどかりと座ったまま、ニヤついていた。
「まったく。無事で帰って来たから良かったものの…」
キラーはカオの服の汚れを払った。
心配でずっと甲板で島の方角を見張っていた男としては、こんな汚れで済んだことは奇跡と思える。
「キャプテンのやることには意味があります。私は大丈夫でしたよ、キラーさん」
「自分を大切にしろカオ」
くしゃ。カオの頭を人撫ですると、キラーは少し横になると船室へ入って行った。後から聞けば、どうやら寝ずの番をしていたらしい。
「キャプテン、私はあそこへ行って良かったと思っています」
「おーおー。もっと居座って良かったんだぞ」
とある島、蛇姫は海の彼方を見ていた。
「娘を帰したのですか」
そんな蛇姫にそう声をかけるものあり。
フウ、と甘い息を漏らした蛇姫は目を合わさず、まだ海を見たまま答える。
「帰さねばならぬと思うた」
「ここの秘密を話すやもしれません」
「恋はいつでもハリケーンなのじゃ」
ちんぷんかんぷんなことを言う女帝に、深く聞く者はいなかった。
カオを閉じ込めることも、カオを殺すことも、自分を否定するようで、自分の思いを殺すようで、できなかった。こんな日が来るとは思わなかったと、また深く息をする女帝はそれは美しかった。