鴨、驥尾に付す
紅茶の匂いがした。
商品のジャムが高い位置にあり、手を伸ばそうとすると、先に手に取ってくれたその人は肉がなかった。
よくできたガイコツの扮装なのか。もしかすると何かの能力者なのか、顔を良く見てしまう。そういった種族なのだろうか、とも考えた。
「すみません、ありがとうございます」
そうお礼を言いながら、白い骨の顔を見てしまっていた。骨はにっこりとする。
「いえいえ構いませんよ。ジャムがお好きですか」
「ええとても」
また紅茶の匂いがする。服からするのだろうか。紳士な印象を受けるその香りは、あの人とは違うなあ、なんてそんなことを考えさせる。
「ああでもそうですね、お礼にと言っては何ですが」
「はい」
背の高い骨の人は少し屈んで、またにっこりとした。
「パンツ、見せて貰ってもよろしいですか」
「えっ」
衝撃の一言に固まってしまう。
パンツを?なぜ?どうして?困惑していれば、横からドロップキックが飛んできた。と、思えば骨の人は悲鳴と共に飛ばされて行った。
「見せるか!」
一喝したのはマスクを外した姿のキラーである。どこから現れたのか、別行動していたはずなのに。
「キラーさん、どこから…それよりもあの人、死んじゃったんじゃ」
「ヨホホ!生きてますよ、私。一度死んでるんですけど!」
蹴り飛ばされたのに笑っている骨の人は、ぶつかって崩れた瓦礫の中から立ち上がるとズボンの汚れを払う。
そういった仕草はやはり紳士に見えるのだが。
「おやおや、用心棒がいましたか。残念、残念」
「あの。パンツって、見てどうするんですか」
「ややや!それはもちろんオ」
骨が何か言いかけると、またキラーの鉄拳が骨に決まる。
「カオも変なことを聞くんじゃない!」
「だ、だってこんなこと聞かれるの初めてで…流行りでしょうか?」
そんなことが流行ってたまるか。キラーは項垂れる。
ぱっぱとまた汚れを払うと、骨の人は杖を持ち直す。すると、素顔のキラーをよく見つめた。
「ンン?あなたもしかして…お顔は初めて拝見しますが、ギザ男さんのところの人じゃないですか」
「さあ。おれは知らない」
「わかった愛人と密会」
キラーの足が骨をドスドスドス!と踏みつける。死んでしまうのではないかと思う勢いだが、紳士の笑い声は止まらない。
「どうなっているんだあの船は!見かける度にカオを一人で居させられない!」
ドスドス!キラーは何か苦悩している様子で、足は容赦なくカオはハラハラとする。
「死んじゃいますよ骨の人!私は大丈夫ですよ、何もされていませんから!」
キラーにそう言ってなだめようとすると、キラーは大きくため息ひとつして、足を止めた。
「カオにはまだ教えることが多そうだな」
セクハラを受けたんだぞと言ってもわかるまい。キラーはカオの手を引き、帰ることを優先することにした。
「お嬢さんー!また会いましょうー!その時は見せてくださいねー!」
そう叫んでいるのが背に聞こえる。
また懲りずにそんなことを聞く骨に、カオは同じく叫んで答えた。
「教えるだけじゃダメですかー?」
「コラ!」
ヨホホ!と陽気な返事がする。
キラーの歩く速度が速まるのがわかった。
「キラーさん、何かまずかったですか」
「おれが絶対に許さん。教えるのも駄目だ。そもそもそんな話をされた時点でカオは…」
「で…でも下着が白色なことくらい言っても害はないのでは」
また速くなるキラーの足。
急に黙ったキラーの背を見ながら、キャプテンにまたいろいろと聞いてみようと思う。
他所の海賊に街中で手をかけるのは良くないと思い、外したマスクが恋しい。
白か、と思いながらカオを見てしまうと、年甲斐も無しに照れてしまった。