愛の前には

今日は船番だ。
外は雨で、ザーと止まることない雨音が癖になる。窓に手をやりながら、カオは外を眺めていた。あまりはっきりとは雨のカーテンで見えないが、薄ぼんやりと街の灯りが遠くチラついている。

「大丈夫でしょうか、キャプテン」

「心配はないさ、キッドなら」

キラーは胡座をかいて何か本を読んでいる。余裕なのだろうか外が見えなくても。不思議に思うカオは覇気の力だろうか、とひとり考える。パラリと指をめくるキラーの指を追う目が、足を動かした。

「何を読んでいるんですか」

「ウワ!」

屈んで横に並び声をかけてみれば、キラーは肩を跳ねさせて驚いた。

「す、すみません、覇気の力でわかるのかと」

「いや、気は張っているんだが。カオは…難しい」

味方には覇気は効かないのだろうか?カオはまたキャプテンに聞いてみようと心にメモをした。
キラーの開いているページをちらりと一文読んでみたが、カオはよくわからなかった。少し見ただけでは政治の話なのか、歴史の話なのかすらさっぱりだ。もっとよくページ見てみようと思い、のしのしと本に近づく。読み込んでいた。

一方キラー。

敵や盗人が侵入してはもちろん困る。読み物をしながら、外を気にしていた。
だがどうも自分はカオにはとんと弱いらしい。声をかけられるまで気がつかなかった。戦闘員としてはとんだ欠陥点だが、人の心はどうにもならない。

カオは読んでいる本に興味があるようで、胡座をかくキラーの足に手を置き身体を乗り出してよく本を見始めた。

近い。

ああ近い、助けてくれキッド。いや、帰って来ないでくれキッド。
キラーはあべこべな願いを飛ばしていた。船で二人きりなのはどうも落ち着かない。嬉しいが、こんなに心乱されてしまっては。


「キャプテンも本を読んでますが、キラーさんの本の方が難しい気がします」

「順序がある。カオはもっと先に知るべきことを知り、段階を踏めばすればすぐに理解できるさ」

「そうでしょうか」

「ああ、カオは飲み込みが早い」

カオはするりとキラーから離れる。
キラーは少し残念。

「頑張ります。キラーさんとお話ができるように」

はにかみながらカオは話した。嬉しいを表現する言葉が出て来ない。カオはこんなに自分を信じて大切に思ってくれている。それがただの良い人としてなのか、男としてなのかは判断し難いが。

「カオはどうして頑張るんだ」

「それは…」

「それは」

「好きだからです」

どこかで聞いたことがあるようなやり取りだった。カオにはぼんやりとした記憶なのだろうが、キラーはハッキリと記憶がある。本に栞もせずに閉じると、カオと向き合った。

「キラーさんを主人として見ているから、役に立ちたいのだと思っていました」

「今は違うのか?」

「だって、主人に、お話がしたいとか、キ…キスしたいとか思いません」

真っ赤になったカオは、どこを見て良いかわからない様子だった。
一方キラー、マスクをしていて良かった。同じくキラーも真っ赤になっていた。