あなたの心

船内はただならぬ空気。
その理由とは。


────昼食

「今日はカレーうどんにしました」

珍しく前日のカレーが余ったため、それを利用してカレーうどんを作った。

キッド海賊団の船ではカレーうどんは禁忌である。

食事を作るものはこれを伝えられるのが普通であったが、カオには伝わっていなかった。キラーから聞いているものだと皆思っていたからだ。

「おいどうする」

「どうするって…言うのか?」

「おれカオちゃん傷つけたくねえ!」

船員たちはヒソヒソと話す。

「そもそもドルヤナイカちゃんの話をするのはまずいって!」

「シーッ!」

ひとりの船員がうっかり大きな声でその名前を発してしまう。慌てて他の船員が口を押さえるが、カオには聞こえてしまったようである。

「ドルヤナイカちゃん…って、どなたですか」

「ええっと…」

「どなたかの恋人でしょうか」

「恋人ではなく…初恋の」

「初恋の…」

「ああ、アーええと、その」


ただならぬ空気。これがその原因である。

─────夕方

キッドとキラーはカレーうどんを食べなかった。

カオはおにぎりを作って、キラーを訪ねてきた。すぐに頬張ったので空腹ではあっただろうとわかる。
前に初恋のことに少し触れたことはあったが、詳しくは知らない。カレーうどんのことを聞いたカオはもしかするとこの初恋はまだ終わっていないのかもしれないと考えた。

「キラーさん」

「どうしたカオ、明日は雨らしいぞ」

3個目のおにぎりを手に取りながら、キラーはカオを見た。なんだか今日は表情がかたいなと思いながら。

「ドルヤナイカちゃんってかわいいですか」

キラーは凍りつく。どうしてその名前をカオが知っている。

「やっぱり動揺している!キラーさんの初恋の人の名前なんですね、ドルヤナイカちゃんは!」

「む、昔の話だ!それにど…動揺なんかしていないぞ!あれは、別に今はもう!」

「船員さんたちが話していました初恋は特別だって!カレーうどん禁止令も!もしかしてまだ好きなんじゃ!」

「そ…それは誤解だ」

「目が泳いでいます!」

船室の外で盗み聞き代表のヒートがハラハラとしながら聞き耳を立てている。隣にはただ単に面白そうなので聞いているワイヤー。自分は黙っていたのに、とヒートはため息。ワイヤーはにやつきながらカステラをかじっている。

「キラーさんが誰を好きでもかまいません!でも好きな人がいるのに、私とキスしたりするのはいただけません!それは不届き者がすることです!」

かまわないのか…とキラーは少し心にグサリ刺されながら、カオがむくれているのは初めてだとまじまじと見ていた。

「キラーさんは人を大事にしてくれる人だと思っています。好きな人はなおさら大切にするべきです」

「カオはおれが他の女を大切にしても良いのか?」

「キラーさんが幸せなら私はそれを望みます!その女性を大切にして欲しいと言われたらお世話もします!」

軍人かカオは。なんて思うくらいハキハキと答えた。そんな姿が少しおかしくて、キラーは笑ってしまう。

「笑いごとじゃありません!私は本気です!」

「すまない、あまりにカオが…フフ」

さらにむくれてカオは腰に当てていた手を離し、腕を組む。

「カレーうどんは、ドルヤナイカちゃんの得意料理だったりするんですか?」

「そう思うか?」

「だ、だから禁止なんじゃ…違いますか?会えた時の楽しみにとしているとか…では…」

「なんだ、嫌いな理由を聞いていないのか」

「嫌いなんですか?では…ドルヤナイカちゃんが嫌いだから自分も食べない、とか…」

カオは推理していくが、とんだ的外れだ。キラーは仁王立ちをするカオを座らせて、自分も隣に座って話し始めた。少し苦い思い出を。

「フラれて殴られて嫌いになっちゃったんですか」

「ああそうだよ」

「でも私に最初聞かれたとき動揺して、目が泳いでいたじゃないですか」

「こんな格好悪い話、知られたくはないだろ。特にカオには」

「なぜです?」

またキラーは目が泳いだ。わからないものだろうか。鈍い、鈍すぎる。自分で赤くなるのがわかると、キラーは口元を片手で隠した。

「カオのことが、好きだからだよ」

2回目だ、言うの。キラーは皆まで言わなかったが、2回目の告白だった。

「初恋の女の話は妬かれると思って話さなかったのもあるが。カオは全然だな」

「だって、だ、だって、妬いてしまうと嫌われてしまうと思って!」

「妬いたのか?」

キョトンとするキラーに対してカオは落ち着かない。

「羨ましいと思いました…キラーさんに好意を向けられるのは」

「カオ」

「み、見苦しいとは思います。やめたいのですが、どうにもいかなくて…まだ好きなら応援したいと思う反面、少し迷いもありました」

「カオ…」

「嫌わないでください!もしキラーさんに好きな人ができても側には居たいので、あ、でも、妬くなら辛くなるでしょうか…」

「カオ…わかった。少し待ってくれ、今おれのキャパシティが限界だ」


ありがとうドルヤナイカちゃん。おかげでカオが妬いてます。