セップンしてセップン

すぐ庇うのは良いのか悪いのか。
キッドを庇ってキラーは深手を負う。

船医は手を尽くしたし、息もしている。
意識もはっきりと戻った。すっかりベッドの番人だが、命あることに変わりはない。
キッドは表情ひとつ変わらないが、意識が戻ったキラーを茶化しにやってきたり、わざと傷口を叩いたりとした。冗談は幼馴染の特権だと言う。

キッドと一緒に見舞いにやってきたのはカオだった。何かに怯えていような姿は、出会った頃を思い出す。キッドの背後に隠れて、幽霊でも見たような顔をしていた。

「キラー、さっさと動けるようにしとけよ」

「わかっている」

二人の会話を側で聞くカオは、交互に二人を会話に合わせて見た。
キッドはキラーに会ってから一言も発さないカオの頭に手を雑に置く。

「世話はこいつだけで充分だろ。俺に頼むな、暇じゃねえ」

「いつもながら命の恩人に対する態度とは思えんな」

「構やしねえ。おいカオ、キラーの復帰早くしろ」

カオの頭に置いた手をザカザカと動かしたキッドは、さっさと部屋を出て行ってしまう。

ばたんと扉が閉まる音の後、少し沈黙。

「キラーさん!」

先に口開いたのはカオだった。
キラーの手をパシ!と握りしめて。

「…カオ?」

手を握りしめたかと思えばカオは泣き始めるし、キラーは慌てふためく。カオが泣くところは見たことがなかった。玉ねぎですら、涙を出すことはできないカオの目にぐじゃぐじゃになるほど涙が溢れ出ている。

そのまま、しばらく泣いた。最初は慌てたキラーも、カオが落ち着くまで待った。少し涙が止むと、キラーは手元にあるタオルを渡す。顔半分を覆って、カオは鼻をスンとすするとキラーを見た。

「落ち着いたか、こんなこと初めてじゃないだろう」

笑ってみせるが、カオは納得しないようだ。

「好きだと言われてからは初めてです」

そうだったかとキラーはとぼけてみる。

「前よりも辛いのは何故でしょうか」

「それはカオがおれを前よりも好きだからだ」

「当たりかもしれません…」

スンとまたカオは鼻を鳴らした。
キラーが身を乗り出してカオにキスとしようとすれば、押し戻される。

「なんだ、キスくらいさせてくれ」

「だめです、怪我が治るまで」

押し戻されたキラーの身体は、わざとらしく音を立てて枕へ戻る。口を尖らせて、ブーたれて、ワガママを言う。

「じゃあ治らん。キスも無しじゃあずっと傷はふさがらないままだ」

「そんな子どもみたいなこと!」

「子どもで良い」

キラーがじっと見てくること、カオは弱かった。

「い、一回だけです」

今度はカオが少し身を乗り出すと、チョンとキラーの口にキスをした。なんだかネコにでも突っつかれたみたいだとキラーは不器用なキスを笑う。
こうやるんだぞと言わんばかりに、キラーは続けてキスをカオに落とす。それは止まらず、カオに喰らいつくようだった。

「一度だけだと…」

キスの合間になんとかそう言うカオに、キラーは悪い顔をする。

「前なら止めていたが、今は止める理由がないだろ」

口が、ちう、と音を立てると同時だろうか、キッドがそれはもうイライラとした様子で叫ぶのが聞こえた。

「早く治さねえとお前のマスク叩き壊すからな!」

そう外から聞こえると、我に返ってカオはキラーから離れる。

「ちゃんとやっぱり寝なきゃだめです!」

「寝たらまたしてもいいか」

「治ったら、ですよ」

キラーはよく甘えるようになったとカオは思う。とても照れ臭いことだが、カオはあまり嫌ではなかった。