その匂い、寝るまで

使えない手。
雑巾も絞れない。

カオが手を怪我してから何日か経った。

「キラーさんのごはん、おいしい…」

すっかり料理係になったキラーが作った昼ごはんを食べ終わってぽつり。

「…おれは毎日カオの、手料理を食べたい」

これはもしかしてチャンスではないのかとキラーはプロポーズのつもりで言い返した。

「治ったらいっぱい食べてくださいね」

未だに鈍いところがあるカオはただお世辞を言われた程度にしかとらなかった。残念。

「最近本を読むんです。代わりに仕事をしてもらって、悪いとは思うのですが」

「良いことだ。別にかまわないだろう」

恭しくするカオを見てキラーは口元が綻ぶ。トントンと机を指で叩けば、近くに、との合図だ。カオはキラーの側に寄る。流れるようにやわらかく、顔を近づけられた。

「あ、だめですよ。食べたばかりですから、きたないです」

何かを察したカオは口を手でおさえる。

「感が良くなったな」

「鼻が笑うんですものキラーさん、キスする前に」

カオはふふふと笑った。キラーはキスもできずにつまらない。臍を曲げたキラーは子どものようにふくれっ面をしていた。

「マスクを取るからと言い訳して、ここに人を寄せ付けないようにしていたんだぞ」

ぐっ!とカオはキラーの身体に抱きつく。

「今はこれだけじゃだめですか」

キラーは面食らった。

「人が来ないのなら、よかった。私もこうできます。人前で甘えるのは得意じゃありませんから」


百万回許した。カオからは、今までと違う匂いがした。この匂いは新しく好きな匂いとして覚えることになる。