ミカン
「本当にうつされてりゃ世話ねえよな」
そう、すっかり風邪をうつされてしまったキラーは寝込んでいた。それをバカにするために来たようなもののキッドは、ついでにと自身が調合した熱冷ましをキラーに渡す。
「嫌だ、ああ嫌だ。キッドの薬は特別苦いじゃないか、飲まないとダメなのか」
「鼻声でガキみてえなこと言うな」
キッドがパシンと布団をひとつ叩くと、キラーは渋々と薬を手に持つ。水が見当たらないと訴えれば、すぐに来るとキッドは答えるだけ。できることなら届いて欲しくはないのだが、熱が高いのも事実。何が入っているかわからないコレを飲まねばならないのだ。
水はすぐに届く。カオがたまご粥と一緒に持って来たのだ。水は持って来て欲しくはなかったが、腹は減っていたし、キッドの荒療治よりもカオの介抱が嬉しい。
「カオ〜」
布団から身を乗り出して、キラーはカオに抱きつく。
「寝ていないとキラーさん」
「こうしていた方が良いんだ」
「俺の前でちちくりあってんじゃねえ」
キッドに言われ、キラーはカオから離れる。カオはキラーが動いた為にめくれ上がった布団を直すと、粥が入った容器のフタを開けた。アツアツとした湯気が上がってゆく。
「冷ましながら食べてくださいね」
「食べさせてくれないのか」
食べる食べさせないと話していれば、キッドの顔が渋くなる。こんなの見てられるかとキッドはひとくち、キラーの口へ粥をねじ込むと笑いながら上機嫌で部屋を離れてしまった。
悲鳴と一緒にアツアツのたまご粥は味もわからないまま、キラーの喉を通っていった。
「わ、わ、キラーさん大丈夫ですか」
「…く…キッドめ」
「やっぱり自分で食べないと」
結局、自分でフーフーしながら食べすすめるキラーである。本来ならここは “はい、アーンして” なんてことをされたり、“ごはん粒がついてるわダーリン” と口の端の米粒を取ってもらったりする時間じゃないのかと、キラーは残念のため息で粥を冷ましていた。
「おまじない、しましょうか?」
「おまじない?」
「うつすと治るってキスしてくれましたよね、あれはおまじないではないのでしょうか」
キラーの良心、カオにうつすのは駄目だ。対してキラーの悪心、せっかくカオが言ってくれているんだから従うべきだ。
「カオにうつすわけにはいかない」
良心が勝った。
「ふふふ、キラーさんなら、うつしてもかまいませんよ」
「それなら…いや、ダメだダメだ」
またカオがその返事に笑えば、なんだか熱のせいもあり、ぽーっと匙を見てしまう。
「お粥食べたら、ミカンでもどうですか」
「剥いてくれるのなら」
「今日はすっかり、甘えたさんのキラーさんですね」
「嫌いか」
「いいえ、なんだかかわいらしくて。わたしは好きですよ」
かわいいと言われるのは微妙だなと、一房、二房とミカンを口へ運んだキラーである。
カオにこの時、かわいい旦那さまみたいだと思われているとはつゆ知らず、キラーのミカンは無くなった。