らんまん
どうやら俺はカオが好きらしい。
だからと言って、ここの奴らが協力してくれるとも思えない。むしろ、邪魔をされたりバカにされたりするだろう。そう思いながらずっと一人で頑張ってきた。
カオはどうも、皆が好きらしい。
そんなこと当たり前だ、審神者なのだから。皆に平等で、特別な気持ちなどわかないのだ。
「カオ、桜が咲いてた。綺麗だぞー」
「そうなの。それならみんな喜ぶから、今度行きましょう」
「ああ、えっ…そう、みんな…な」
本当は二人で行きたかったのだ。
他の連中が居てもらっては困る。
カオと入れ違いに角を曲がって来た男がひとり。
「またフラれたのか」
そう腕組みをしながら声をかけてきたのは長曾根虎徹。こいつはおれより前からここに居るらしい。どうも察しがいいらしく、たまにこうやって様子を見ては声をかけてくる。ちょっと兄貴分みたいなところがある。髭あるし。
「ウチのは手強いぞ。…と、他の所のことはよく知らんのだが、俺でも気がつくお前の行動にビクともしていないのだからなあ」
苦笑いをする長曾根の顔。
「お前は…その、どうなんだ」
「なにがだ。ああ、主のことは好きだが、お前の気にするような気持ちではない」
前に、刀たちの中でいちばん好きな顔は誰だと聞いたことがある。その時にカオは「長曾根さん…」と少し照れて話していた。
それがものすごくかわいくて。長曾根はズルイと思った。でも単に顔が好みというだけであって、それ以上でもそれ以下でも無いと話していた。
中身の話だと、気のせいかカオはよく蜻蛉切と居ることが多い。気が合うらしくて。
蜻蛉切が甘いものが好きだとヒッソリしているのを知ったカオは、コッソリと手作りのお菓子を食べさせていたことを知っている。
ズルくないか?そんなのって。俺だって甘いものは好きだぜ。
歌仙はここにいちばん最初にやって来た奴。なんだかそれだけで特別。羨ましい。
太郎太刀は戦闘でいちばん活躍させてもらっているし、小狐丸や江雪たちは遠征で頼りにされている。
最近では、桑名江や村正までしゃしゃり出て来ている。俺の立場は。
そんなことをもんもんと考えながら廊下を歩いていると、角を曲がったカオが現れた。アッと声を出して「御手杵」と呼ぶ。なんだなんだとドキドキしながら返事をすれば、しゃがめと言うのだ。
のばされたカオの手が顔に近づく。
心臓はバッコバッコと音を張り上げた。
「桜がついてるの、さっき気がついて」
「な…」
頭に触れたカオの指はすぐに離れて、桜の花びらをつまんでいた。そんなもんをずっと頭にくっつけていたのか俺は。
「御手杵だから気がつかないかもと思って、戻って来たの」
普段なら、そんなに鈍くないとか、そんなにボーっとしていないと怒るところなのだが。なんだか、カオが俺のために戻って来たというだけで嬉しかった。こんな小さなことなのに、どうして。
「御手杵」
「あ、お、おう」
「御手杵、桜が出てるよ。嬉しいこと…あった?」
情け無い悲鳴をあげて、俺は出てくる誉れの桜を振り払った。