ハクチョウ
空はあかね色。沢山の貝類を集めて、夕食にしようとバケツを運んでいた。
砂浜に足跡がつく。キラーはそれを見て『つかまえごらんなさーい』『待て〜こいつぅ〜』というあの定番イチャつき芸を思い出していた。アレやってない、と少しショックを受けていたのだ。やりたかったなんて言えないくせに、ショックを受けてしまうのが余計に悲しかった。
「たいへん」
ボーッとしていれば、バケツを置いてカオが寄ってきた。なんだなんだ、アレができるのか?と思っていればカオがしゃがみ込んだ。そして足を見ながら言う。
「キラーさん、足を切ってますよ。岩場で切ったのでしょうか」
「ああこれくらい。どうってことない」
足からは血が滲み出ていた。貝拾いに、常に覇気を纏っている者はいないだろう。ウッカリ切ってしまったのだ。それほど痛みは無いために気にしていなかった。
船に着くとすぐにカオは医務室へキラーを引っ張って行った。こっちですこっちですと急かして手をグイグイ引っ張るだけでもキラーは手を繋いでいることが嬉しく、わざとゆっくり歩いた。
医務室の椅子にキラーを座らせれば、カオは消毒液やガーゼを取り出す。ここのツンとするにおいがキラーはいつまでも苦手だった。
手当てなんてすぐに済んでしまい、正直つまらない。もっと大怪我ならカオはもっと心配してくれたのかもしれないなんて言えば怒られるだろう。
医務室にはベッドがある。そこに自然と腰掛ける彼女は薄着。思えばここは密室。暗くなりつつある空。これはもしかして、もしかするとチャンスなのではないだろうか。キラーはゴク、と固唾を飲んだ。
「なあカオ」
「はい」
キラーは声をかけながら自然と自分もベッドの方へ腰掛けて隣に移る。
「おれたちはもう長いじゃないか。長すぎるくらい。こんな時に、いや、こんな時だからこそ良いタイミングなんだ」
目をパチパチさせて、カオは何もわかっちゃいない。
「入れたい」
ストレートに言って見た。これはもう博打。どう思われるかわからないし、嫌と言われるかも。キラーはまっすぐにカオを見た。
「良いですよ。キラーさんが言うなら、わたしはお任せします」
意外な答えだった。
もっとこう、照れたりためらったりするものだと思っていた。やはり奴隷だったカオには、素直に受け入れるしか答えは無いのだろうか。
カオの肩に手を置き口づけようとすると、スッと容器を渡されてた。
「これは、なんだ」
「消毒液の容れ物です。いつも大きな容器から詰め替えて、こちらの小さな容器で使うのですけれど。ちょうど空になって…」
「消毒液」
「そんなにキラーさんが詰め替えが好きだなんて知らなくて。入れてもらえるなら助かります。なかなか消毒液の容器が重たくて、わたしには」
「詰め替え」
「他に入れるものがありましたか?まだ全てはチェックしていないのですが、脱脂綿でしょうか…それとも、薬…」
博打はぼろ負けだった。
カオは何もわかっていない。詮方無く肩から手を降ろせば、自分の股間が萎えていくのがわかった。その気が無くなった合図だ。
萎えてしまった自身の自分を慰めながら、医務室を出た。カオはまた明日傷の処置をしましょうと話している。薬でも盛らないと、カオは欲情しないのだろうか。ワイヤーに言えば盛ってくれそうだが、そんな騙すようなことはどうだろう。
空は灰色。白々明けに起きれば、カオが横でスースーと寝ていた。どうして一緒に寝て、何も無いのだろう。
自分の身体を起こすと、カオは脚だけすっぽり布団から出していた。カオはムームーを着て寝ている。恐る恐るキラーはカオの胸部に手を伸ばす。あまりにも柔らかくて驚いた。
カオが目を覚ましたのはすぐで、さすがに体を触られれば気がつくのだろう。何をしているかもカオはわかったようだ。理由はわからないようで、すぐに問うてきた。
「どうしました」
子細らしい顔をしてキラーが手を引っ込めると、カオは半身起き上がる。顔を覗き込んで、心配そうにしているのが心痛んだ。
「入れたい、触りたいと思ったんだ」
「わたしを?」
「他に居ないだろ」
ブスッとしながらキラーは返事をした。
「おれを男として見ていないのか」
「とんでもないです」
カオはトン、と頭を押し付けてもたれかかり少し笑った。
「嫌いになったか」
「わたしがキラーさんを嫌いになると思っているのなら、大きな間違いです。わたしはキラーさんが女性でも動物でもどれだけ意地悪な人でも、好きになっていましたよ」
骨がきしむくらいにキラーはカオを抱きしめた。愛しくておかしくなりそうだったのだ。
「いっぱいしてください」
なんてカオは照れながら笑った。
カオがふふふと笑うと息がくすぐったい。
いっぱいするぞ!とキラーは意気込んで、ンーと口を近づけたがカオは突然立ち上がった。キラーはボフリと布団に顔を突っ込む。
「朝食の準備がまだでした!先にそれを済ませて、洗濯を済ませて、デッキのモップがけを終わらせてから戻って来ますね!たいへんもう日が昇っています!」
バタバタとカオは慌てて部屋を飛び出して行った。
「こんなおあずけ…あんまりだ」
キラーは枕を抱きしめて、残ったカオの匂いを嗅いだ。それをオカズにすっかり元気になっていた自身をスッキリとさせたのはダメも知らない。皆に用事を頼まれ、カオが戻って来たのは日も暮れた切ない時間になってからだった。
泣き寝入りしたのは言うまでもない。