やかん
「月が綺麗ですね」
船の上から見上げるまんまるな月を見てそうこぼしたカオ。キラーは比喩だろうかと一度固まるが、きっとこれはカオの本心なのだろうと言葉を飲み込んだ。
「月がこんなにも明るいだなんて思っていませんでした。いつも屋敷の中から、ぼんやりとしか見えていなかったもので」
カオの育ち方からして、夜空を見上げるなんてことは考えられなかったことだろう。自由では無いことすら気が付かない暮らしが普通であったのだから。
「海に月の光、歩いて渡って行けそうですよね」
「行くなよ。橋じゃないんだ」
「もし歩こうとしていたら止めてください」
そんな冗談を言って笑って。カオを見ては、ゆっくりと笑う。今こうしている時間が何でもなく誰のためでもない、生きる途中の箸休め。
「キラーさん、改めて言うと、少し…恥ずかしいのですが」
「ああ」
「拾ってくださって、ありがとうございます。あのままわたしは動物の餌になっていたと思うと、とても不思議で」
照れ笑い。カオの目はあちこちをキョロキョロとする。体操をしているような目線がおかしくて、キラーは口角が上がるのだ。
「少し冷えるな。もう中に入ろう。風邪をひく」
「お部屋でお話ししてくださいますか」
「そうだな、何が良い」
どんなことを話すか相談をしながら部屋へ向かう。
毛布をかぶって、寄り添いながら昔話を話し、聞いて、ふたりは自然と眠りについた。秋の夜中。