スープのマナー
「ごはんいっぱいよそっちゃいました」
山盛りいっぱいよそわれた茶碗に光る白米。割烹着を着て少し恥ずかしそうにしているのはカオ。今の姿にしゃもじがよく似合う。
いつものテーブルは無く、丸いちゃぶ台に畳の部屋。キッドは内装を変えたのだろうか。なぜだかいつものことのように胡座をかいて座っている自分。
「いつもと違わないか」
「そうでしょうか?あ、こちらの方が好きでしたよね」
そう言うカオを見れば、先程の割烹着は無いし、エプロンに変わって、どうして突然、裸だし。裸エプロンって実在するんだと思ったのは驚いて米を吹き出した後だった。
「どうされたんですか、喉に魚の骨でも…」
「いや大丈夫…わ!動くな!見える!」
飛び上がって慌てていれば大丈夫かと裸エプロンのカオが心配してくる。カオのチラチラの方が心配だ!とワタワタして襖にもたれかかればいとも簡単に襖が外れて頭を打った。痛がる間もなく倒れ込んだところにカオが覆いかぶさって来る。
押し付けられた胸がエプロンの間から見える。なんだこれは、本当になんだこれは!身体に力も入らず、押し除ける力も無い。
「カオはこんなことしない…品のない格好もしない」
「それならこうですか」
ムク、と身体を起こして腹の上に跨るように座ったカオはもう裸エプロンではなく、下着だけの姿であった。どこのブランドかわからないが、ヒラヒラキラキラしていて高そうだ。
「違う違う!」
「それならこうですか」
パッと変わったカオはウエディンドレスを着ていた。いつもと違うがとても良かった。花嫁は綺麗だとか、神父の戯言だと思っていたがとてつもなく綺麗だった。
身体の自由が戻り上半身を起こす。
「違うんだが、そのままでも良い」
「わたしの旦那さまになってください」
これが逆プロポーズ…祈るようなポーズに純白のベールがよく似合う。
「カオが、おれの…嫁に…」
息を吸う時間が長くなる。スウ、と吸い込むたびに胸が締め付けられた。
「お嫁さんにしてください」
「おれで良いのか」
「キラーさんじゃないとダメなんです」
顔を覆っているベールを上げて直接カオを見れば、頬を染めてこちらを見つめていた。
鐘の音がしだと思えば、いつの間か教会のような場所、自分も白い正装で、神父の格好をしたワイヤーが「誓いの口づけを」と囁く。
もう何も気にすることもなく、カオに口づけようと顔を寄せたところだった。
目が開いた。明るく、思わず目を細める。
しばらく脳が起きるまではボーッと動き少なく、ゆっくりと瞬きをした。
「夢か…」
そう呟くと、途端に虚しくなった。そしてとてつもなく恥ずかしくなった。
夢は自分の潜在意識の中にあるものが出るとかなんとか聞いたことがある。自分はあんな淫らなカオを望んでいるのだろうか。なんて都合の良い夢だったのだろう、いとも簡単に結婚までしていた。
「キラーさん、もう皆さん朝食済みましたよ」
ひとりで赤面していれば、扉の向こうからカオの声がした。アーと恥ずかしさからおかしな声を出してしまうと、カオがソロリと部屋へ入って来た。
「具合が悪いんですか…?」
夢ではない本物のカオを見ると、余計に恥ずかしく心臓は跳ね上がった。
『旦那さまになってください』
言われたい!しかし恥ずかしい!布団を頭まで被ると、余計に心配したカオはこちらの気持ちもつゆ知らず近寄って来る。お願いだそっとしておいてくれ。
「夢を見ていた…」
「嫌な夢でしたか?」
「また見られるなら同じ夢を300回見たいくらい良い夢だった…」
その時だ、布団の上からギュー!と抱き締められたのは。不意打ちに固まる感覚は夢のそれに似ていた。
「ちゃんと夢から帰って来てくださいね、朝ご飯残しておきますから…」
現実の方が何万倍も良いと思った。
夢と違って、本当に柔らかくて、曖昧だった身体つきがわかる。
夢ならもっと楽しんでおくんだったと後悔したりもしたキラーは、キッドの悪夢を見ることになるのであった。